2月の恋 3










 「僕は…、佐伯のように君の手を放したりしないよ?」






突然不二の口から紡がれた佐伯の2文字。

不二が自分とサエのことを知っているはずがないのに…。




 「君には黙っていたけど、僕と佐伯はもう随分昔から友達なんだ。
  だからもちろん君のことも知っていた。
  いや、ニュアンスが違うね…。
  僕の方が佐伯より先に君を好きになっていたんだ!」


不二の告白には驚いて顔をあげた。

そんな話が信じられるはずも無い。


 「千葉に遊びに行った時、偶然見かけた君の笑顔に心を奪われたんだ。
  君は冗談にしか取ってくれなかったけど、一目惚れっていうのは本当のことだよ?
  僕は何とかして君と知り合いになりたかった。
  それなのに次に佐伯に会いに行った時、は佐伯の彼女だったんだ。」

 「う…そ…。」

 「僕こそ嘘だと思いたかった…。」


不二の目の色はどこか淋しげだった。

私はずっと彼にこんな瞳で見つめられていたのだろうか?

サエと仲良く笑った顔もサエに恋してる顔も
全部不二に見せてしまっていたのだろうか?


 「だから佐伯から君が青学に来ると聞かされた時
  僕は自分の運の強さを素直に喜んだよ。」

 「でも…。」

 「そうだね、君は佐伯のことが好きだった。
  だけど君は佐伯を束縛するタイプじゃなかった。
  そして佐伯は束縛されない限り相手に固執しない…。
  悪いとは思ったけど僕は君たちが遠距離恋愛できないって思ってた。」

 「そっか、そこまで見抜かれてたんだ。」



私はそっとため息を付いた。

でも、なんだかこれで肩の荷が半分下りた気持ちがする。

サエのことは引きずってる訳ではなかったけど
同じテニス部というつながりを考えれば
黙っていた所でいつかサエのことは不二の耳に入りそうで、
それをずっと黙っているのは後ろめたい気持ちもあった。

  
つながれている不二と私の手。

私がその手の力を抜くと不二は慌てたようにぎゅっと握り締め直した。



 「不二君…。」

 「まだ踏ん切りつかないの?」

 「ううん。…私、不二君の事、もうとっくに好きだと思う。」

 「うん。」

 「でもね、やっぱりだめだと思う。」

 「どうして…?」

 「私とサエがだめになったのは、サエのせいだけじゃないから。
  むしろ、私がだめなの。」


握り締められた手は、私の気弱な心を不二が一生懸命引き止めてるように見える。

不二の熱が痛いほど私の体の中に入ってくる。

その熱をすべて知ってしまったら
私は一人になった時、その熱が恋しくて泣いてしまうかもしれない。

いや、もうすでに泣きそうだった…。

 

 「何がだめなの?」

不二は優しく聞いてきた。

 「だって不二君、春が過ぎたらしばらく日本にはいないって聞いた。」

 「夏の間だけだよ?」

 「でも…、いなくなる。
  海外で試合があるたび、不二君はいなくなる。」

 「戻ってくるよ?」

 「でも、私…、多分待てない。
  自信がない…。」


不二の体温と同じくらい熱い涙が溢れてしまっていた。

こんな顔を見せたら不二を困らせてしまうことはわかっていたけど
サエの前では張れた虚勢も不二には出来なかった。


不二はグイッと私を引き寄せると強く抱きしめてきた。

重なる体温をダイレクトに体中に感じることになってしまい
私は思わず離れようと最後の足掻きをして見せたけど
不二は決してそれを許してはくれなかった。



 「離さない…って言っただろう?」

 「不二…君/////。」

 「好きだってわかってて、この手を離すことなんて出来ると思う?」

 「…。」

 「大丈夫、が寂しがりやだってこともわかってるし、
  何より僕自身、なしでは生きていけない。」

 「オ、オーバーだよ…。」

 「全然。
  に比べたら…。」

 「な、何言ってるの?」

 「だって、毎日毎日どんな顔で僕の事を思ってくれてるんだろ、
  って思ったら、の事なんて放っては置けないもの。
  意地っ張りのくせに脆くて壊れやすい。
  佐伯が案外まめな奴じゃなくてほっとしてるんだ。」


くすくす笑う不二の顔が本当に嬉しそうで私もつい泣き笑いになってしまった。


 「うん、やっぱり君の笑顔が好き。」


そっと目尻から零れていく涙をふき取ってくれる不二の指先はとても優しかった。

私がいつもそうして欲しいと思っていた事を不二はこんなにも容易くしてくれる、
そう思うと不二の言葉がどれも信じられる。

不二の瞳の中に私がいて、私の瞳に不二が映る。

それが永遠に続くと思わせる不二に、もう抗う気持ちは全くなかった。


手に持っていた鞄が床に落ちた音を気にすることなく
不二の手にしがみつけば、不二はゆっくりと顔を近づけてきた。


 「ねえ、キスしてもいい?
  君が好きなんだ。」


 「えっ!? ちょ、ちょっと待って!」

 「正直、待ちくたびれてるんだけど?」

 「だって、こ、こんな所で…////」

 「僕はどこだっていつだっていいんだけどな。」

 「待って! じゅ、順番ってものが…。」


慌てふためく私に噴出す不二は絶対確信犯。

そういう風にいつだって気持ちをストレートに表す不二に
私はずっと惹き付けられていくのだろうと思う。

花に水をやるように毎日毎日愛の言葉を囁いて。

疎ましいと思わないで。

そうじゃなきゃ枯れてしまう。


 「順番って…。」

 「だって、今日はそういう日でしょ?」


私は床に落ちていた鞄からチョコの包みを出すと不二に差し出した。






 「受け取ってください!」





不二の満足そうな笑顔にさすがに照れてしまって、
好きですって言う言葉は付け足せなかったけど
その後に交わした口付けでお互いの気持ちは十分通じ合った。


待たされた分取り戻さなきゃ、と言う不二の言葉が恐ろしくもあったけど、
キスを強要されるよりも別の事にこだわりを見せた不二が意外だった。




 「だからさ、佐伯の事をサエって呼ぶのは仕方ないとして、
  僕の事は周助って呼んで欲しいな。」

 「い、いきなりですか?」

 「ああ、それから来週六角と練習試合があるんだ。」

 「えっ?」

 「もちろん応援に来てくれるよね?」

 「そ、それは…。」

 「佐伯の事は気にしなくていいよ。
  もうとっくにの事は話してるんだ。」

 「ええっ!?」

 「ふふっ。さすがに佐伯の奴もがっかりしてたみたいだけど。
  最初からは僕のものだったんだから別にいいと思ってさ。」


佐伯の落胆した顔なんてレアだろ?なんて酷いことを言う不二は
1年以上もの間私の返事を待つという気の長い部分を持っていたくせに
どうやら人一倍独占欲が強いらしい。



でも、ね、不二…

私は束縛される方が好き

放って置かれると死んじゃうからね



そんな思いを込めて私から不二にキスをあげたら
不二は今までで一番素敵な笑顔を私に見せてくれた。


もうバレンタインデーにサエを思い出すことはない。


これから先私が思い出すのは
    不二の笑顔と不二の柔らかな唇の感触だけだろうと確信した。











The end


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☆あとがき☆
 今年もバレンタインデーのために
毎日不二のことを考えていました。
不二になら束縛されたいです。
かまってかまってかまって〜//////って!(笑)
 「僕の駄々っ子ちゃん!」なんて…ね。
甘やかされたい願望が強すぎだな、私。
2008.2.14.