春うらら
なんで自分はこんな場所に居るのだろう?
自問自答してる真田がここにいた。
目の前にはきゃぴきゃぴ女子高校生2人組。
駅前広場の柱にもたれ掛け、
腕組みしている真田はすでに眉間に皺がよっている。
「あの〜、私たちこれから八景島に行くんですけどぉ〜、
よかったらご一緒しません?」
「私たち、あんまりここらへん、詳しくなくてぇ。
かっこいいお兄さんが一緒なら楽しいなぁなんて。」
真田は帽子を深くかぶり直すと、
不機嫌そうに答えた。
「あいにくだが俺は人待ちなんだ。
それにどこの誰ともわからん奴と一緒に出歩くほど
暇ではないんだ。」
無愛想な真田の返答に、
女子高校生たちはそれぞれ、ノリが悪いなあ、などと不満顕わに立ち去る。
なんであんな頭の悪そうな奴に声を掛けられねばならんのだ、
大体こんな場所を待ち合わせにした事自体、
真田にとっては迷惑至極なのであった…。
けれど、バレンタインデーのお返しにとデートするためには、
(いや、正確には柳と幸村に邪魔されないようにするには、)
彼らの出したデートコースに真田が従うという条件付であった訳で。
部活が忙しくて結局とこうして2人で出かけるのも、
春休みになってしまったのだが、それだって理不尽なものだ。
真田がの恋人であるのに、なんで外野が主導権を握っているんだか…。
悶々と考えれば考えるほど、俺はのなんなんだ?と言う不安が頭をもたげてくるので、
真田はため息をつきながら時計を睨んだ。
約束の時間にはまだ15分も間がある…。
「弦一郎!!
やっぱり早く来たんだね?」
目深にかぶった帽子の下から覗き込むように愛しい恋人の笑顔が見えた。
「あ、ああ。」
「もう、弦一郎ったら、何、逆ナンパされてんの?」
「うっ?見ていたのか?」
「うん。だって私のかっこいい王子様が壁に持たれて私を待ってる姿なんて、
そうそう見られないなあと思って。」
が悪戯っぽく笑った。
「ね、弦一郎!」
「なんだ?」
真田がの方へ顔を近づけると、
はひょいっと軽くジャンプして、真田の帽子を取った。
「ほら、この方が絶対いいよ?
弦一郎はかっこいいんだからさ。
みんなに自慢したい気分なの。」
は真田の帽子を自分の頭にのせた。
そういうは春らしい装いだった。
まだすこし肌寒いからGジャンを羽織ってるものの、
中はシースルーのかわいいTシャツを重ね着していて、
胸元は大きく開いていて、白い肌が眩しいくらいだった。
スカートも今はやりのアンシンメトリーなカッティングで、
左足はミニ丈だった。
真田はいつもより刺激的なの服に、
視線をどこに向けていいのか困るほどだった。
の方こそ、真田にとっては自慢の彼女。
が、真田を自慢したいというとは違って、
真田にとっては誰の目にも触れさせたくない程、
が好きなのであった。
今だって、この駅前広場で自分の恋人を待ってるだろう男どもが、
なぜかに注目してる事など、本人は全く気がついてない。
けれど、真田にしてみれば、それだけでも十分過ぎるほど、
ヤキモチの対象になるのであった。
「ねえねえ、この服、どう?
幸村と柳が似合うって見立ててくれたのだけど、
弦一郎はどう思うかなって。」
はくるりと回って見せる。
スカートがふわっと広がり、の太ももが白く浮き立つ。
真田は顔が火照るのを感じながらも、
同じように周りの男どもまで、
自分と同じような気持ちになっているであろうことに腹が立った。
そして人のデートなのに、
をこんなに可愛くさせてしまう幸村たちにも、
実のところは腹が立つのであった…。
「ああ、その、なんだ、
に似合ってるとは思うが…。」
「が…?」
「少し目立ちすぎると思うが。」
真田の言葉にがクスクス笑う。
「大丈夫。弦一郎の方が目立ってるって!!」
はそう言うと真田の腕を引っ張った。
「さあ、デートしよ?」
幸村と柳が指定したデートコースは、
それこそ春爛漫なデートスポットそのもので、
どこもカップルで賑わっていた。
こんな人ごみをよく歩く気になるものだ、と
真田は他人事みたいに思うのだが、
傍らで楽しそうにしているを見るにつけ、
幸村たちの策もまんざらではないと思うのであった。
港の見える丘公園で一息つこうとベンチに座ると、
はアイスクリームを買ってくるから待ってて、と言う。
少し離れた所にアイスの移動販売のワゴンが見える。
テニスの試合が長引こうが、真田にとってどうという事はないが、
やはり慣れない事をすると多少疲れるものだ、と苦笑を隠せない。
けれど、こうして自分のためにアイスを買いに行くの髪が、
潮風になびいてる後姿を眺めるのも悪くない、と真田は口元が緩む。
と、アイスの売り場にあと少しという所で、
が2人の男たちに行く手を阻まれてるのに真田は気がついた。
何やらに話しかけてる様子に真田は憤然と立ち上がった…。
「ねえねえ、彼女。
僕たちと遊ばない?」
「君、ここらへんにいる女の子の中で一番可愛いよ。
友達と一緒ならダブルデートなんてどう?
お昼ぐらいおごっちゃうよ〜。」
茶髪の男たちはどうやらが女友達と2人で来ていると勘違いしているらしい。
「うーん、ダブルデートって言われても、
私の一存じゃあ決められないんだけど。」
は全然余裕で、首をかしげながらクスクス笑う。
どう見たって真田に勝てる相手ではない…。
「俺の彼女に何か用でもあるのか?」
大股で歩いてきた真田が一人の男の首根っこを掴んでから遠ざける。
そのあまりの力加減に男はよろめく。
「何しやがるんだ!」
そう息巻いてみたものの、真田の強面に2人組みはあっとたじろぐ。
「弦一郎、この人たちがお昼をご馳走してくれるって言うんだけど、
どうする?」
の言葉にさすがの真田も面食らうのだが、
そこは立海大の副部長。
どんな状況下でも締める時は締めるのだ。
「ほう、俺はお前たちにご馳走される筋合いはないと思うのだが?
何か理由があるのか、聞かせてもらいたいものだ。
ただし、それが不届き千万な理由であれば、
俺は容赦はしないぞ。」
真田にすごまれた2人組みは腰を抜かしたままあたふたと立ち去った。
「。ああ言う輩の言葉を鵜呑みにするとは、たるんどる証拠だぞ!」
「ええ〜?今日はめいっぱいたるんでもいいんじゃないの?」
はクスクス笑いながら真田を見上げる。
「全く。お前は能天気すぎるぞ。」
「そうかなぁ。
だって弦一郎がいるから大丈夫でしょ?」
それはそうなのだが、真田にしてみればやはり面白くない。
「。行くぞ。」
「えっ?だってまだアイス、買ってきてないし…。」
「…。」
「まだ幸村たちのデートコース、
半分も消化してないよ?」
「…。」
「あとで柳たちに何を言われても知らないよ?」
が何を言っても真田は答えない。
はため息をついて真田の後に従った。
「ねえ、弦一郎、怒っちゃった?」
「…いや。」
「じゃあ、これからどうするの?」
の問いに真田は振り返ると、を抱きしめた。
真田がこんな公衆の面前でそんな大胆な行動に出るとは思わなかったは、
びっくりしたように真田を見上げる。
「。
お前の一番好きな奴は誰だ?」
「うん?弦一郎だよ。」
「俺もが一番好きだ。」
「うん。」
「2人でいる時くらい、あいつらの名前は出さないでくれ。」
「うん。」
「あいつらのためのデートではないはずだ。そうだろう?」
「うん。」
「だから…。」
「だから?」
「その、もう限界なんだ///」
そう言うと、真田はの唇を吸った。
今までも何回もキスはしてきたが、
今日ほど熱烈なキスはなかった。
そして再びをきつく抱きしめると真田は耳元で囁いた。
「お前が欲しいのだが…。」
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「今頃先輩と真田先輩、どうしてるでしょうねえ。」
自主トレを終えた赤也が呟いた。
「幸村先輩たちが作ったデートコースで、
真田先輩大丈夫なんすかね?」
「ふふっ。あの真田が大人しく俺たちの作ったプランを
本当に遣り通すと思ってるの?」
幸村が不敵に微笑んだ。
「ま、すでに真田がを自分の家に連れ込んでる確率、
99%だろうね。」
柳も静かに答える。
「えっ、そんなのありっスか?」
「まだまだお子様だねえ、赤也は。
あの真田がの可愛い姿に我慢できると思ってるの?
学校だから自制心があるものの、
そんなもの彼だって男なんだから
いつまでも聖者のようにに従ってる訳ないじゃない。」
「で、でも、それじゃあ…。」
「うーん、でも約束破ったら当然罰は必要だよねえ。
柳、次の休みは俺たちだけでとデートしようね。」
幸村の黒いオーラに、
赤也は自分に彼女ができても絶対この2人には内緒にしようと心に誓うのであった。
The end
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☆あとがき☆
真田バレンタインものの続きです。
もうちょっと横浜あたりをデートさせてあげたかったのですが、
あっち方面詳しくないのでやめました。(苦笑)
2005.3.21.