極上生徒会 番外編
立海大の生徒会室のその奥に
会長だけが使うことを許された特別な部屋がある。
ゆったりとした大きなソファーのサイドテーブルに
が淹れたてのコーヒーを置くと
先程から偉そうにふんぞり返ってる跡部がその香りに目を細める。
「少しは上手くなったじゃねーか?
ま、俺様が持ってきた上等な豆だから、美味くねーはずはないがな。」
「あのねー、なんで毎回毎回ここでお茶していくのよ?」
「ああん? コーヒーは俺が持って来てやってんだ。
文句言われる筋合いはねーんだよ。」
あれ以来、いや、もちろんあの後、跡部に再び会った時は話をする気にもなれなかったが、
どうも跡部はそこら辺が無頓着なのかどうなのかよくわからなかったが、
差し入れと称しては生徒会室に入り浸るようになっていた。
「お前は飲まねーのか?」
「後で幸村君といただきます。」
「可愛くねーやつ。」
不思議なもので跡部とこうして普通に話すことが出来るようになるなんて
絶対にないと思っていた。
相変らず俺様でひねくれ者で我が物顔の氷帝の生徒会長だったが
の事が気に入った、というのはまんざら嘘でもないようだった。
もちろん、幸村だって跡部のした事を黙認した訳ではなくて、
は自分のものだからと、跡部とが二人になるような事は絶対に許さなかった。
跡部の方だって、葦名とは上手くいってる様で
それだからこそ幸村が、跡部が生徒会室で寛ぐのを容認してる訳なんだろうが、
はこの二人の生徒会長同士が妙に仲がいいのを不思議な気持ちで眺めていた。
「今日は一体何の御用ですか、跡部さん。
まさかコーヒー1杯のためにここに来た訳じゃないでしょうね?」
合同文化祭の最終チェックでこっちは忙しいんだから、と
わざと嫌な顔をして見せたら
案の定、跡部は眉間に皺を寄せてこちらを睨んでくる。
といっても慣れとは恐ろしいもので、
跡部の胡散臭そうな顔つきもが見つめていると
やがてふっと目を細めるしぐさに変わるものだから
最近はどんなにぶっきらぼうな言葉が返ってきても
前ほどの威圧感は全然感じられない。
「用向きならお前の彼氏が知ってんだろ?
全く余計な金を出させやがって。」
「えっ? あの見積もりじゃ足りなかったの?」
が幸村の方を振り返ると、今まで黙っていた幸村が
茶目っ気たっぷりににウィンクするのが見てとれた。
「ああ、ひとつ計上するのを忘れていてね。
どうせなら後夜祭をもう少し華やかなものにしてもいいんじゃないかと思って。
ま、幸い跡部は快く引き受けてくれたけどね。」
「よく言うぜ。
快くっていうのはな、脅されて承知させられる事じゃねーだろ。
全く、なかば強引に進めたくせに。
といってもはした金だ、どうってことねーけどな。」
「はした金って…。」
相変らず跡部と言う男は鼻持ちならぬヤツだったし、
素直じゃないところは直しようがないけれど
なんだかんだと言いつつも、合同文化祭は跡部にとっても楽しみのようだった。
「ああん? 後夜祭がちんけなものじゃ
俺様の名に傷がつくだろうが。」
「大袈裟ね。お金をかければいいってもんじゃないと思うけど。」
「お前、ほんとに男心がわかってねーんだな。」
いやいや、文化祭に男心なんてしろものがどうして入るのか
理解に苦しむところだけど、
後夜祭のダンスパーティーは女の子たちにとっても
ある意味メインイベントな訳だから
としてもある程度の予算オーバーは覚悟していた。
なんたって文化祭の期間中での他校との出会いは
女の子たちにとっても最大のチャンスなのだから。
「お前、ダンパに何着ていくつもりだったんだ?」
「な、何って、制服でしょ?」
跡部の問に真顔で答えたら呆れたようにため息をつかれた。
「はっ、幸村が苦労する訳だ。」
「ちょ、ちょっと、なんでそこまで言われなきゃならないの?」
「あのなぁ、男ってもんはロマンチストな訳だ。
好きな女には誰よりもきれいでいてもらいてぇし、
こう、ぐっと大人びたドレスでも着せて見せびらかしてぇに決まってんだろ。
で、その後一糸纏わぬ姿を見るにしたってだ、
筋書きっつうもんがあるだろうが…。
つうか、お前、幸村の事、聖者の様に思ってんじゃねーだろな?」
は目が点になった。
そりゃあ、あんな性格だから跡部がどんな台詞吐いたって
もう驚く気にもなれないけど、
なんかその発言って、幸村も同じ考えだって言ってる気がするんだけど…?
「跡部。
男心を語るのはいいけど、
デリカシーのないことは言わないで欲しいな。」
「ああん?
とどのつまりは誰だっておんなじだろ?
俺だけ悪者でおまえは聖者ぶるつもりか?」
けっ、全く嫌な奴だぜ、と言葉では悪態をつきながらも
怒ってる風でもなく、跡部は立ち上がるとの前に1枚のカードを差し出した。
「…何、これ?」
「俺の系列会社のVIPカードだ。」
「へ?」
「この店に行けば何でも好きなものを借りられる。」
「借りる?」
「いちいち面倒くせぇ奴だな、お前は。
後夜祭に着るもんがねーんだろ?
貸してやるってんだよ。」
なんでこう、頭ごなしに叱られるような口調で言われなきゃならないのか、
ほんと癇に障る感じだったけど、
跡部にここまでしてもらう理由はないような、
というか、彼氏の前で跡部の(一応?)親切な申し出を受けるのは悪い気がして
はそのカードを跡部に押し返した。
「い、いいよ。こんなの、受け取る訳にいかないよ。」
「はぁ?やるって言ってんじゃねーんだよ。
貸すだけだ。」
「だけど…。」
まだ躊躇するの手に幸村の手が重なった。
「いいんだよ。
この位してもらったって。
1着くらい用立ててもらったところでどうってことないよ。
唯、跡部からプレゼントされるのはさすがに俺のプライドが許さないから、
一番高価な奴を借りようと思ってさ。」
「だとよ。
素直に幸村のために着飾るんだな。
ま、葦名ほどのスタイルはないからドレスに負けるなよ。」
跡部は鼻で笑ってそう言うと生徒会室から出て行った。
「む。なんか酷い事言われた気がする。」
むすっとしながらキラキラ光るカードを弄んでたら、
幸村が背後からを抱きしめてきた。
「そんな事ないさ。
は俺にはもったいないくらい素敵なレディさ。」
「ゆ、幸村君////。」
耳元で囁かれるとくすぐったいけど、幸村なら安心して身を委ねられる。
「は可愛いよ。
他の奴らの目に触れさせたくはないけどさ、
こういう機会に俺のものだって誇示しておけば
間違ってもに手を出す奴はいないだろう?」
そう言っての首筋に軽くキスする幸村に戸惑うだが
自分のことを大事に思ってくれてることは十分伝わってくる。
彼がこんなにキス魔だとは思ってなかったけど
それでもの反応を見ながら加減してる様で
最初のキスのような強引さや無理強いはあれから一度もない。
「幸村君。」
「何?」
「私、ドヘタだからね。」
「何が?」
「だ、だから、…ダンス。」
「なんだ、そんなこと。」
ぎゅっと抱きしめてる腕に力がこもって
幸村が笑顔でいてくれるのがわかる。
「俺のそばにいてくれれば十分さ。」
「なーに、いちゃついてるんかのぅ。」
不意に生徒会室のドアが開いたかと思うと
仁王がニタニタと薄ら笑いを浮かべていて
は真っ赤になって俯くしかなかったけど、
幸村は平然とその手を緩めることなくそのままの体勢で顔だけ仁王に向けた。
「仁王、何か用かい?」
「まあ、用がなかったらこんな無粋なマネはせんよ。」
「ふふ、そうだね。」
「後夜祭のダンパ会場の最終チェックがちーとばかり手こずってるんじゃと。」
「ああ、真田かな?」
「まあな、あいつはあいつなりに頑張ってるんじゃろうが
結構傷は深いんじゃろ。」
「さ、真田君が?」
そう言えばあれから真田君は目も合わせてくれない。
いろんな事がありすぎて抜けていたけど
真田はに告白してものの見事に玉砕を遂げていた。
人一倍正義感の強い彼が親友にたて突いてまでもを思い、
それなのに彼の期待に応えられなかったとはいえ
幸せな姿を近くで見せ付けるような事になってしまった状況を思うと
真田の心痛はいか程のものなのか…。
「やっぱり…私、後夜祭には…。」
「出ないなんて言わせないよ?」
すかさず幸村が耳元で囁く。
「全く、仁王の言葉を鵜呑みにしちゃだめだろ?
大体真田はそんな柔な男じゃないし。
仁王も、をからかうのをやめないと―。」
「わかった、わかった。
、マジで真田は凹んではおらん。
ま、いちゃつくお前らを正視できんだけじゃ。」
「えっ?」
「じゃから、とびっきりのドレスアップで真田を元気にしてやりんしゃい。」
「…?」
「男はな、たとえ振られてもな、
好きだった女が一番輝いとってくれれば幸せなもんじゃ。
困った事に、どこまでもロマンチストにできてるんじゃろの。」
「うん? この際真田はどうでもいいけど、
俺のロマンは満たせてもらわなきゃね。」
クスクス笑う幸村のロマンを満たせるかどうかはわからないけど
どうやら後夜祭はどうしても想像以上に男のロマン談義に
一役買わねばならなさそうだ。
「とりあえず、このカード、使わせてもらおうね。」
幸村の細い指に挟まれた金色のカードが妖しく光るのを
はだただた見つめるしかなさそうだった。
The end
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☆あとがき☆
生徒会のその後が描きたくてずっと放置していたものです。
跡部ともっとドロドロさせたい気もしたんですが
どうも性に合わないのでやめました。(笑)
2007.09.22.