極上生徒会 〜立海大編〜 10
大きく見開かれたの瞳には幸村が映っていた。
決して逸らす事などできないような、
幸村の穏やかな目はの心の中まで見透かしてくるような気がしていた。
「俺はね、に副会長としての役目を押し付ける気は無かったよ?」
一言一言ゆっくり幸村が紡ぐ言葉にの表情は暗くなる。
「私、そんなに期待されてなかったんだ?」
「何言ってるの?
跡部とのことは 頼んでやってもらう仕事ではないだろ?」
「そう…だけど。
でも、私はどんな仕事だって、幸村君から言われたかった。
幸村君のためならどんな事でもするつもりだった。
葦名さんには相談しても私にはしてくれないのかと思うと…。」
「そんな風に思ってくれてたんだ?」
思わずこぼれたの言葉に幸村が苦笑する。
「ごめん。俺が悪かったんだよね?
いいよ、君にどんな風に責められたって俺はかまわないよ。
それでも君の事が好きっていう気持ちは変わらないし、
これからひとつずつ君の気持ちに応えていくつもりだから。」
「…/////。」
「だから、君の気持ちもちゃんと告白して欲しいんだけど?」
物腰の柔らかな幸村の口調はの心を嬉しいくらいに震えさせ、
自分がどうにかなってしまったのではないかと言うくらい顔が熱くなってきた。
「わ、私だって、好き、だよ。」
「こんな俺でも?」
コクンと頷くと同時に、幸村の両腕が優しくの肩に触れ、
そのまま顔を寄せてきた幸村が耳元で囁いてきた。
「ありがとう。俺も好きだよ。」
頬と頬とが触れ合ってその心地よい感触がゆっくりと移動し、
やがて幸村の柔らかな唇がまさにの唇に触れ合いそうになった瞬間、
は突然身を硬くして幸村を突き放した。
お前も 俺様なしで 生きていけないようにしてやる
あんな風に言われて無理やりされた行為…。
フラッシュバックのように蘇る跡部の冷たい唇。
何度も何度も抗いながらも阻止する事が出来なかった自分の大切なファースト・キス。
思い出したくもなかったあの時の光景、纏わり付いてくる跡部の嫌らしい息遣い、
押さえ込まれた時の圧迫感。
その何もかもが一度にの脳裏に浮かび、たとえ目の前の顔が大好きな幸村の顔であるにもかかわらず、
体はその幸村のキスを拒んでいた。
自分には好きな人とキスする資格がないような
汚されたままの唇で幸村を受け入れるにはあまりにも
あの時の感覚が、記憶が鮮明すぎて、到底真面目なには耐えがたかった。
そして何よりもが見たくなかったのは、
突き放されてその原因が自分にあったと瞬時に理解して苦悩する幸村の表情だった。
「ご、ごめんなさい。」
「が、謝る事じゃない。」
「だけど…。」
「悪いのは俺だから。…気にするな、って言っても無理だよね。」
「ううん、あれは…、あんなの、たいした事じゃ…。」
そう思っても、あのキスをなかった事に出来ない自分がいて
思わず涙が出てしまう。
そうしてそんな自分を見て欲しくなかった。
跡部の感触がまだ残ってるなんて、なんて嫌な女なのだろう。
俯くの手を握り締め、幸村は出口に向かって歩幅を早めた。
「ゆ、幸村君?」
躊躇いがちに見上げた幸村の表情は真剣で、
思いが通じ合ったと言うのに彼を不機嫌にさせたかと思うと
少し前の嬉しさはどこへやら、強引に引っ張られていく幸村の手の力が
段々と怖くなっていく自分に更に泣けてくる。
階段を下りて彼が向かおうとしている先には
あの重厚な生徒会室の扉が見えた。
静まり返った生徒会室のさらに奥の部屋のドアを開けると
幸村は上質なソファーの前でを抱きしめてきた。
「跡部の事は忘れて、って言いたいけど、
君のせいじゃないのに君にだけそれを強要するのはフェアじゃないよね?」
の自由を奪うほど強くでもなく回された手は、
やがてを落ち着かせるように、優しくその髪を梳き溶かす。
「君が嫌がることは今はしたくない…、そう思う気持ちもあるんだけどね。
このままだと君は家に帰って一人になった時、
俺じゃなくて跡部の事を思い出しそうだよね。
だから、…君が彼を思い出すよりも強く俺を思うようなキスをあげるよ。」
「ま、待って。」
「もう待たないって決めた。」
「でも…。」
「いいよ、怖かったら思い切り拒絶して。
でも止めないけどね。」
強引にの顔を上に向かせると、幸村は何の躊躇いもなく唇を重ねてきた。
幸村の唇にの涙が伝わり、二人の初めてのキスは悲しいくらい甘くなかった。
「こ、こんなの嫌!」
「大丈夫、君は俺の事が好きだろ?」
幸村はさらに何度もキスを強要してきた。
その行為は跡部とどこが違うのか、と混乱する頭では必死に逃げようとするのだが、
が力を込めれば幸村もを抱く手に力がこもり、
深くなるキスに戸惑っての力が抜けると幸村もそれに合わす。
初めのうちは幸村の胸を叩いたり、泣きじゃくったり、
こんな酷いキスを1日のうちに2回も経験する事になるなんて思わなかった、
と抵抗したものの、
そのたびに幸村の 大丈夫、愛してるから、怖くないから、と
なだめてくれる優しい声は、惜しみなくの脳の奥底に染み渡ってゆく。
そのキスの間隔は次第に長くなり、呼吸するのが辛くなる程激しいのに、
幸村の落ち着いた声と暖かな大きな手がに次第に安堵感を与える。
跡部とは全然違うキス…。
それがはっきりと頭と体に伝わって、
脱力感に幸村に身を預けたら、幸村はやっとをソファーに座らせてくれた。
「疲れた?」
は放心したまま頷く。
キスをするだけでこんなに体力を消耗するだろうか?
そう思うのはだけで、覗き込んでくる幸村の顔は
いつも通りの爽やかさで少し恨めしく思われる。
「、幸せの音を聞くかい?」
並んで座ったまま、幸村がの頭を制服越しに自分の胸に押し当てると、
自分と同じく早鐘のように脈打つ幸村の心臓の音が聞こえた。
「早い…。」
「だろ? 今の俺はすごく幸せなんだよ。」
ほら、君が側にいるとドキドキが止まらない、と笑う幸村は
本当に嬉しそうだった。
「…幸村くん。」
「何?」
「幸村君ってあったかい。」
「うん。俺がいつでもこれからは君を暖めてあげる。
寂しくないようにそばにいる。
君を失望させたりする事は2度とないから。」
「うん。」
「でも、本当は、このまま押し倒してもいいんだけど。」
「えっ!?」
思わずまた緊張するの顔の涙の後をゆっくりと拭きながら
幸村はいたずらっ子のように微笑んだ。
「の本当の仕事は、俺の相手をする事!…なんてね。」
職権乱用は得意だから、としれっと言われてしまうと
どこまで本気なのか分からない。
「じゃ、じゃあ、幸村君も私だけの相手をして…?」
「クスッ。君が意外に嫉妬深かったなんて知らなかった。」
「ち、違うったら。
た、ただ、幸村君って3年生に人気あるって…。」
「葦名さんの事?」
「…それだけじゃ…なくて。」
「仁王に吹き込まれた?」
返す言葉がなくて黙ると、つぐんだ口元に幸村がまたついばむ様なキスをしてくる。
「なっ//////。」
「安心して。俺には君だけだから。
隠し立てする必要もないわけだし、
ああ、むしろ周りにアピールしていかないといけないね。」
幸村はニッコリ微笑むとの手をぎゅっと握り締めた。
「そうだな、生徒会主催の企画をひとつ提案しよう。
俺たちの交際披露パーティーとか、どう?
もちろん、かかる費用は跡部もちでね!!」
呆れたと驚くに、なんたってここは極上生徒会だからね、
と屈託なく笑う会長には誰も勝てない気がする、絶対に、ね。
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☆あとがき☆
やったぁ、やっと終わりにできます。
誰が何と言おうと終わりです。(笑)
2007.5.4.