見えない記念日  Vol.3

        〜The memorial day which can't be seen 〜








2月28日(月)


その日の朝、は担任に頼まれたプリントを取りに職員室にいた。

のいる所からやや離れた場所で、竜崎先生と話している横顔に見覚えがあった。

不二だった。

は切れ切れに聞こえる話の中で、
竜崎先生の「留学先でも頑張るんだよ。」という言葉にはっとした。

は先に職員室を後にすると、
しばらく考えた後、
不二が出てくるのを壁にもたれかけながら待つ事にした。


やがて不二が職員室から出てくると、
不二はドアの横でプリントを抱えてるに気づき、
以前のように優しい眼差しでに声をかけてきた。



 「やあ、久しぶり。
  また担任に手伝わされてるの?」

クスッと笑う声を聞いて、はやっぱり不二が好きだと実感する。

 「今、聞こえちゃったんだけど。
  不二君、留学するの?」

 「ああ。留学って言ってもテニス交換生って奴なんだ。
  半年間アメリカにテニスの腕試しをしに行かないかって。」

 「…そうなんだ。」

 「僕なんてたいしたことないよ。
  手塚は本格的にドイツの大学へ留学するんだし。」

 「えっ!?」

は驚いて不二の顔を見上げた。

 「どうしたの?
  まさか知らないっていう訳じゃないでしょう?
  手塚に聞いてないの?」

 「全然知らなかった。」

が首を横に振るのを見て、今度は不二が驚いた。

 「だってさんには真っ先に言うことだと思うけど。」

 「どうして?」

 「えっ?
  だってさんは手塚の彼女なんでしょ?」


は不二の言葉に手にしていたプリントをばさばさと落としてしまった。
異様に固まってるのために不二は屈んでプリントを拾いながら言葉を続けた。


 「手塚も君の事を好きだったなんてね。
  手塚に聞いたんだ。
  君に告白したって。」

拾い上げたプリントをに渡そうと不二が立ち上がると、
そこには思いつめたようなの顔があった。



 「違うよ、不二君。
  私、手塚君の彼女なんかじゃないから…。」

 「でも…」

 「手塚君に告白されたのは本当だけど、
  私、断ったの。
  1年前からずっと好きな人がいるからって。
  ちゃんと断ったんだから…。」

いつの間にかの頬を暖かな涙が濡らしていた。

 「不二君、私の事、
  なんでも断れないタイプだって思ってるんでしょ?
  私、
  私だって、好きな人からの告白じゃなかったら
  ちゃんと断るよ。

  こんなに、こんなに不二君のことが好きなのに、
  手塚君の彼女だなんて思われていたなんて…。」


 「えっ?今、なんて言ったの?」


は頬を伝う涙をそっと手の甲で拭い取ると、
無理して笑って見せた。


 「ううん、もういいの。
  不二君になんとも思われてないってわかってるから。
  だけど、これだけは言わせてね。

  不二君、お誕生日おめでとう///」




そう言うとは不二の手にあったプリントを受け取ろうと不二に手を伸ばした。

ところが、今度は不二の方がそのプリントをあろうことか宙に舞い上がらせた。

プリントは見事に弧を描きながらゆっくりと二人の周りを埋め尽くした。



不二は差し出されたの腕を引き寄せると、
の体を丸ごと受け止めた。

 「ねえ、今の僕の気持ち、わかる?
  今までで最高の誕生日だって思えるよ。
  今年の誕生日は見えないけど、
  僕はこんなに素敵なプレゼントを手にする事ができたんだから…。」

不二の息がの耳元をくすぐる。
ぎゅっと抱きしめられている感触はわかるのに、
の頭の中は、一体今何が起こっているのか理解できないでいた。

 「ふ、不二君…///。」

 「ん?」

 「私…プリント拾わなくっちゃ…。」

の言葉に不二はクスクス笑う。

 「だめ。これからは僕の頼みを優先してくれなくっちゃ!」

 「でも。」

 「ねえ、もう一度聞かせてくれないかな?
  僕はさんの事がすごく好きなんだ。
  もう誰にも遠慮なんかしないよ?
  さんは?」


は不二の心臓の音を聞きながら、
自分の心臓の音も不二に聞こえるのじゃないかと思う位ドキドキしていた。


 「私、私はずっと好きだったよ、不二君の事。
  今までも、多分これからもずっと…。」

 「よかった。
  僕、君が手塚の告白を断りきれないんじゃないかって思ってた。
  どこかで、手塚なら仕方ないって諦めていたんだ。」

そう言って不二はの顔を覗きこんだ。

の手に自分の両の手を絡めると、
不二はそっとの頬の涙の跡にキスをした。



 「ねえ、今日はずっと僕の傍にいてね?
  ああ、僕、今ならテニス留学の話、断ってもいいくらいだ。」

はびっくりして不二の瞳を見つめる。

 「ふふっ。僕は君のためならどんなことだってできるから。
  そのかわりさんも、
  僕たち2人の邪魔をするような頼み事はもう引き受けたりしないでね?」

悪戯っぽく微笑む不二の顔が見れなくては真っ赤になって俯く。

 「もう今日は一日中ずっと一緒にいよう!!
  英二に何言われても僕は君の傍にいるよ。
  ああ、それから僕の事は周助って呼んで欲しいな。
  僕はって呼ぶから。
  だって君は僕の特別な人なんだから…。」

俯いたままはなんだかおかしくなってクスクス笑ってしまった。

 「何、?」

 「ううん、不二君って頼みごと多すぎだなって。」

 「うん、僕って欲張りかも。
  でも、僕の頼みごと、は断れないよね?」

そう言って不敵に笑う不二はとっても嬉しそうで。

 「ほら、僕の事は周助って呼ばなくちゃいけないでしょ?」

 「うっ///。」

 「呼んでくれなきゃここでいつまでもこうしてるけど?」

不二はの背中に手を回すと、またの体を自分の体温で暖めるかのように
きつく抱きしめた。

 「わっ、わかったから、周助…////」





幸せな気持ちはだけでなく、不二も同じ気持ちで…。



がそっと不二の腕の中から廊下の向こうを見やると、
そこには去年の自分の姿が幻となって見えた。


 2005年の、よかったね!
 

去年のがそう言って祝福してくれてるようだった…。





       不二君、お誕生日、おめでとう!!












 The end




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☆あとがき☆
 1年前の自分と今の自分をだぶらせて書いてみたかったのですが、
やっぱりというか、力不足ですみません。(苦笑)

 でもでも、不二君、今もあなたが好きです!

これからも好きでいさせてね?


2005.2.28.