もうすぐクリスマス。

青春学園の校内にあるモミの木にも
クリスマス・デコレーションが施され、
校内のカップルにとっては下校時の楽しみの一つとなっていた。

このモミの木にはまことしやかな青学の伝統があった。

それはカップルでこの木にクリスマス・オーナメントを飾ると、
翌年もまた、同じ人とクリスマスを祝う事ができるというものだった…。








        愛のオーナメント










その日もはいつものように自分の靴箱を開けた。
上履きの上には、何通かの封筒が置かれていた。
はため息をつくと、その封筒をそっと取り出した。

 「また入ってるの?」

親友のが隣で苦笑している。

 「うん。」

 「クリスマスが近いからねえ。
  みんな必死なのよ。」

 「必死かぁ。」

その封筒たちは明らかにラブレター。
それが自分宛ならいざ知らず、なぜか全部、同じクラスの不二宛て。

夏まで青学の男子テニス部のマネージャーをしていたにとって、
クラスメートよりも不二とは親しい関係である事に違いないけれど、
こう毎日のように不二宛てのラブレターを見るにつけ、
それを不二に渡しに行く行為はどんなものかと疑問に思う。



 「別に渡すのはどうってことないんだけど、
  こういうものって、本人が直接渡すものじゃないかなって、
  私は思うんだけどな。」

 「そりゃあね。
  でもそれができない子もいるわけだし。
  だけど、あの噂があるからね…。」

 「噂って?」

 「あれ?、知らないの?
  不二はね、自分が好きな子からの手紙じゃないと絶対受け取らないらしいよ。」

 「えっ?そうなの?」

 「だのに、が手渡す手紙は受け取ってもらえる…。
  返事は来ないけど、受け取ってもらえるならそっちの方がいいに決まってるじゃない?」

 「まあ、…そうだけど。」

 「ねえ、ねえ、がその手紙持って行くと、
  不二は受け取らないで、とか言わないの?」

 「う〜ん、別に何にも言わない。
  ちょっと困ったような顔はするけど黙って受け取るよ。
  でもいつも手紙の差出人は確認してる…かな。」

 「ふ〜ん。
  不二ってさ、案外意中の人がいて、
  その子からの手紙、待ってたりして。」

でも、あの不二に限って、そんな事ありえないよね?とが笑う。
好きな子がいるんだったら、さっさと告白するに決まってるもの、とは続ける。

はその言葉に少し胸が痛む。

 「やっぱりいるよね、好きな子…。」

 「やだやだ、何たそがれてんのよ〜。
  悩むんだったら、この子達みたいに、
  何か行動を起こしてみたら?」



に言われなくとも今までにも何度告白しよう、と思ったことか。
でも、マネージャー業を引退しても同じクラスだから、
毎日不二とは会えるし、
毎日言葉を交わすし、
にとっては今のままでも十分幸せだった。
それだけで満足なんだ、とは自分の気持ちに蓋をし続けていたのだ…。







放課後になって、は朝、靴箱から取り出したラブレターたちを、
うっかり不二に渡すのを忘れていた事に気づいた。

窓際の後ろの席にいる不二を確認すると、
は不二に声をかけた。

 「不二、これ」

は封筒の束をいつものように不二に差し出した。
不二もいつものように丁寧に差出人を確認する。

はふと、の言葉を思い出し、
よく考えもせず不二に尋ねてしまった。

 「ねえ、不二は本当は誰かのラブレターを待ってるの?」

 「なんでそう思うの?」

不二は明らかに困惑したような色を瞳に浮かべていた。

 「いや、なんで、って言われると理由はないんだけど。
  ただ、いつも差出人は確認するんだなあって不思議に思っただけ。」

 「もし待ってるんだ、って言ったら?」

 「そ、そりゃあ、びっくりするかも。」

 「どうして?」

不二はに質問を返すたびに、なぜか徐々に獲物を追い詰めていく動物のような、
捉えどころのない妖しい微笑を口元に漂わせていた。

 「だって、不二って待つタイプに見えないから。」

 「それ、テニスのイメージで見てない?僕の事。」

不二はよほどおかしかったのか、いつまでも笑っている。

 「そんなに笑うことないじゃない。
  私は、不二なら、好きな子には速攻でアタックするのかと思っただけ。
  女の子の方からの告白を待ってるなんて、信じられないよ。」

 「クスッ。別に女の子の方から告白してもらいたいなんて思ってないよ。」

 「じゃあ、好きな子がいるんだったらさっさと意思表示すればいいじゃない。
  そうすれば私だって、不二に思いを寄せる子達の手紙を渡す役なんて、
  返上できるんだから。」

 「そうだね。
  もうすぐクリスマスだし、
  僕もそろそろ限界かな。」

 「でしょ?
  本命がいるんならちゃんとしないと。
  クリスマスはやっぱり彼女と過ごしたいでしょ、不二も。」

そう言いながらは、これで不二ともいい関係でいられなくなるなあと、
胸の奥がちくりと痛んだ。

普通に話しているつもりなのに、なぜか目頭が熱くなってきて、
はそんな自分を見られたくなくて、前髪をくしゃくしゃといじりながら下を向いた。

 「もクリスマスは彼氏と過ごしたいの?」

不意に不二が尋ねた。

 「ううん。私は無理。
  好きな人に本命がいるってわかっちゃったから…。

  でも、今年のクリスマスには、
  不二がクリスマス・オーナメントを飾る様子が見られるわけね。
  すごい騒ぎになりそうだな。
  不二の彼女が誰か、楽しみにしてるね。」

は最後にそう呟くと、不二を残したまま、教室を飛び出した。




告白しない前に失恋か…。仕方ないよ。




切なくなりながらも頬を伝う涙が暖かくて、
ふと自分があのモミの木の下にいるのに気づいた。



3年間、縁がなかったね―――――涙を拭きながらモミの木を見上げる。



突然は後ろから誰かに抱きしめられて体をこわばらせた。
が、聞き慣れた優しい声にの心臓は張り裂けそうになる程驚いた。

 「待って。
  君は僕からの告白を聞いてはくれないの?」

 「ふ、不二?」

 「から初めて手紙を受け取った時の事、
  僕は忘れられないんだ。」

 「て、手紙なんて、私…。」

 「そうさ。君は他の人の手紙を僕に渡したんだ。
  その時、僕がどれだけがっかりしたか、君にはわかる?
  が手紙をよこすたび、もしかしたら、って期待してたのに。」

 「そんな…。」

 「でも君はちっとも僕の気持ちに気づいてくれない。
  だから、ちゃんと言うよ。

  僕は、が好き。」

不二は甘く囁くと、の首筋に後ろから軽くキスをした。

 「ふ、不二…///。」

 「ねえ、速攻で口説いてみたけど、
  返事は?」

 「えっ///。」

口ごもるの耳元でさらに優しく不二が囁く。

 「僕は君が好きだよ。」

は瞳を閉じると後ろでの言葉を待ってる不二に答えた。

 「私も…不二が好き。」

 「よかった。
  これでクリスマスは2人っきりで過ごせるね?」

不二はそう言うと、の胸のリボンをそっとほどいた。

 「ふ、不二?」

 「これから先のクリスマスも、とずっと一緒に過ごせるように。」

不二は自分のネーム入りのリストバンドをはずすと、
それにのリボンを通し、
モミの木の枝にオーナメントとして結びつけた。

は不二に抱きしめられたまま、
2人のオーナメントを見つめた。

 「不二。
  メリークリスマス!!」

 「うん。僕たちの未来にメリークリスマス!!」








  The end



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☆あとがき☆
 クリスマス夢、やはりシメは不二君でしょう?
 だって私の中で一番は不二君なんですから。(にっこり)

 ああ、これでやっとお役御免となれました。
 ちょっとあっさり系ではありますが、
 無謀なクリスマス企画ができて楽しかったです。
 不二君、ありがとう。
 
 それからこんな私の作品を読んで下さった方たちにありがとう!
 どうか素敵なクリスマスをお過ごしくださいね。
 そして、よい年をお迎えください。

 2004.12.24.     管理人:木之本桜