その真っ白な日  5








発着ロビーを抜けて外に出れば
都心には珍しく粉雪がちらちらと舞い始めていた。

キンと耳を切るような寒さに首をすくめれば
まるで私たちがそこに現われる事を予想していたかのように
1台の車が近づいて来た。

大きな跡部の手で背中を押されて暖かな車中に身を置けば
後から乗り込んで来た跡部に
まるで離れるなと言わんばかりに抱き寄せられた。

 「お前、随分痩せたな。」

 「そ、そうかな?」

 「の抱き心地は忘れてねーつもりだが?」

ふっと笑われてまた顔が熱くなる。

 「そう言う恥ずかしい事は言わないでよ。」

運転手さんの方を気にしながら私が小さな声で言えば
跡部は屈託なく笑う。

 「俺は今すぐにでも抱きてーんだがな。」

 「もう!」

1年前にはこんな風にじゃれ合う仲になれるなんて想像もしてなかったけど
跡部のからかいにぷいっと窓の外を向けば
それでも緩められる事のない腕の温かさに幸せだなってしみじみ思う。

 「冗談だ。」

 「あ、当たり前だよ!」

 「これからはいつもそばにいる。」

 「えっ?」

 「お前の側にいる。
  親にもちゃんと紹介してやる。
  お前の親にも認めてもらわねーとな。
  それからだ。」

何が?とはもう言えなかった。

堂々と跡部の彼女になるんだ、
そう思うと嬉しさが先に立ってまた涙腺が緩みそうになる。

私は車窓に流れるように見えては消える粉雪を眺めながら
傍らの愛しい人に頭を持たれかけた。









     ********







 「で、何でわざわざ見せ付けに来るん?」


目の前の忍足はわざとらしいため息を付いている。

跡部が行き先を氷帝学園とした時には
まさか忍足に会いに行くとは思ってもみなかった。

忍足と目が合うと私は何だかとても気恥ずかしい事をしている感じになった。

 「でも、、良かったんやな。
  ええ顔しとる。
  惚れ直しそうや。」

 「馬鹿か、てめーは。
  は俺の女だ。」

 「よう言うわ。
  どんだけ跡部のいない間、俺が支えてやって来たって思うねん。
  なあ、。」

忍足は私の相槌も待たずに言葉を続けた。

 「それにな、俺は失恋した訳やないで?
  俺たちの関係はもっと気持ちの奥深くで繋がっとるんや。
  は跡部の彼女かもしれんけど
  俺たちは一生もんの友達やからな。」

忍足が片目を瞑ってにんまりと笑うのを
私は改めて感謝の気持ちで忍足を見つめ直した。

 「忍足君。」

 「跡部に泣かされたら、またいつでも俺の胸を貸したるで。」

 「生憎だな、もうこの先一生それはない。」

そう言って跡部が私の肩を抱くから
忍足は大袈裟に眉を顰めた。

結局跡部は忍足にヤキモチを焼いただけなのだろうと思った。

でもあの跡部にそんな風な気持ちを起こさせるほど
私を想ってくれているのかと思うとくすぐったくてたまらない。

好きで好きで仕方ないのは私の方だったはずなのに。

私と跡部はまだまだ知り尽くしてない事だらけなのだと思う。


 「もう目の毒や。さっさとどこでも行きや!」

忍足の言葉にそうだな、なんて相槌を打つ跡部。

いい加減にしろと言わんばかりの忍足の表情に
私も笑みが漏れて仕方がない。





そのまま私と跡部は連れ立って大学内を歩いた。

ちらほら舞う雪なんて全然気にしないで
跡部が手を握ってくれている。

あちこちで跡部の姿を見つけて立ち止まる女の子たちは
みんな一様に驚いている。

私はもう気恥ずかしくてたまらないのだけど
跡部はゆっくりと歩き続ける。


 「こういうのも悪くないだろ?」

 「えっ、あっ、うん。」

 「何だよ?」

 「ううん、高校ではこんな事、絶対無理だなって思ってた。
  なんだか夢みたい。」

 「無理だなんて言うな。
  俺たちは付き合い出したばかりだろうが?」

 「そうだね。」

 「どこか行きたい所はあるか?」

跡部の優しい声に私は少し考えてから返事をした。

 「前に、跡部君に連れて行ってもらった所。」

 「前?」

 「ホワイトデーに連れて行ってくれたレストラン。
  あそこがいいな。
  美味しそうだったのに緊張しすぎて
  何を食べたかなんて全然思い出せないんだもの。
  だからちゃんと付き合いだした記念に
  もう一度あそこから始めない?」

 「初デートのやり直しか?」

 「うん。」

 「そうだな。
  じゃあ・・・。」

跡部が私の手を引いて向き合うと
目の前には跡部の蒼い瞳が至近距離で待ち構えていた。

 「思い出に残るファーストキスもやり直しだな。」

ふっと笑う跡部を瞼の奥に刻み付けて
後は熱い口付けの感触で胸が一杯になった。

見せ付けるかのような長い長いキスは
それでも私たちには短すぎるキスに思えた。

遠くの方で落胆してる女の子たちの声が聞こえた。

 「跡部君のファンが減っちゃうね。」

ぎゅっと抱きしめられてる跡部の胸で囁いたら
跡部は喉の奥でクツクツと笑っていた。

 「別に関係ねーな。
  俺は前からずっとの事しか見えてねーからな。」

 「そうなの?」

 「知らなかったのか?
  ホワイトデーにお返しをした奴が本命だったろう?」

 「ただの噂だと思ってた。」

 「全く。
  じゃあ、今度のホワイトデーは
  もっといい思い出にしてやるからな。」

うんと頷けば跡部の優しい手が頬に伸びて
また上を向かされる。

灰色の上空から粉雪はまだ薄く薄く舞い降りてくるのが
ぼんやりと目の端に映って綺麗だと思った。

頭の中でホワイトデーって今日の事を意味するんじゃないかな、
なんて思ったけど、次の瞬間また跡部の体温が体中に流れ込んで来て
真っ白になっていく自分を感じていた。








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☆あとがき☆
 2011年、まだまだテニプリ大好きです。
この時期になるとほんとバレンタインに誕生日に
ホワイトデーにと節目節目をお祝いしたい気持ちは
一杯あるのですが、なかなかそれを形にできません。
10周年記念イベントもこれからどんどん形になって行くのを
心待ちにしながら私も頑張っていけたらと思ってます。
2011.3.2.