2度目のクリスマス
初めてのクリスマスなら何でもいい、で済ます事ができたけど
2度目ともなるとそうはいかない
だって私は幸村の彼女で
幸村は私の彼氏で
去年のクリスマスからもう1年も続いてるんだよ?
それって凄くない?
幸村に好きだよ、って言われて凄く嬉しくて
幸村の傍にいるのが当たり前の日常になっていて
毎日が恥ずかしいくらい幸せで
気づいたら1年なんてあっという間で
その間にも幸村は全国区の有名なテニスプレーヤーになっていて
学校では付き合いたい男子NO.1になっていて
そんな彼氏の隣にいるのが普通の私で
幸村に教えてもらう数学の順位だけが上がった位で
私は去年と何にも変わってない・・・
なんだかね、幸せは減ってるなんて思ってはいないんだけど
幸せを取り巻く空気はこの頃微妙に薄い気がするの
幸村の傍を離れてしまうと途端に空気が霞んでしまって酸欠になりそうな
だから頑張って幸村の後をくっ付いて追いかけてたのに
この頃見慣れた背中は段々小さくなって
このまま私が歩かなかったら彼は気づかずにドンドン離れて行ってしまうのかな?
なんて思ったら、本当に歩けなくなってしまって・・・
「幸村先輩〜!」
「ああ、赤也。」
「クリスマスに校内試合、やりましょうよ!」
「試合?」
「そう。そんで幸村君がでっけーケーキ、買ってくるの。
勝った奴から好きなだけケーキ、食っていいってことで。」
「なんかそれ、丸井ルールって感じ。
俺、ケーキ買ったら損じゃない?」
「んっじゃ、負けた奴が支払いって事で!」
「えっ、俺、不利っすよ〜!!」
気づいたら幸村は途中で出会った丸井や切原たちと楽しそうに喋りながら
ずっと先を歩いて行ってしまう
私なんて
私なんて
やっぱりそんなものなんだ
「お前さん、何しとんじゃ?」
後ろ髪を括ってない仁王に突然肩を叩かれた
ぼーっと突っ立ってる私に不審げな視線をよこして
それでも話しかけてくれるのは幸村の彼女という名目のせい
「ううん、何も。」
「幸村は一緒じゃないのか?」
「ああ、うん、なんか置いてかれた。」
ひねくれ者だと解っていてもそんな風に言ってしまう自分はお子様だ
「けんかでもしたんか?」
「えっ? まさか、まさか!」
けんかになるくらいの会話数さえこの頃なかった気がする
「まあけんかにはならんか。
、とりあえず歩かんか?
ここにおってもええ事はないからのぅ。」
そんな風に優しくしてくれるのは幸村の彼女だから?
そうじゃなかったら仁王はきっと私の相手なんてしないだろう
「私、今日は用事があるんだった。
ごめん、幸村君に先に帰るって言ってくれるかな?」
上手く笑えたか自信はないけど
ぎゅっと鞄を握り締めてくるりと後ろを向く
そんな私に仁王のため息が聞こえた
「お前さん、勘違いせんでくれんかの。
俺は幸村の頼みは聞くが、の頼みは聞けんな。」
「えっ?」
思わず振り返る私の視界には片手を上げたまま立ち去る仁王の背中しか見えなかった
「大体くよくよ考えてる事があるんなら
そこから逃げ出すような事を考えてちゃ、なーんも解決にはならんぜよ?
自分の事は自分でなんとかしんしゃい。」
自分の事は自分で
そう言われてもどうしたらいいのかわからない
離れてしまった大好きな背中を振り向かせる事なんてできそうにない
付いて行くのが精一杯だった私はまた歩き出す事も踏ん張る事もできない
2度目のクリスマスはもう目の前なのに
彼の心を掴むためのプレゼントも思い浮かばない
彼が一緒に過ごしてくれる自信もない
なんだかすごく悲しくなってきた
「?」
どの位ここに突っ立ってたのかわからないけど
ふっと顔を上げたら幸村が困ったような顔をしているのにぶつかった
困らせたい訳じゃないのに
幸村のお荷物だと思うのも嫌なんだけど
こんな彼女でごめんね、って言えたらすっきりするのかな?
「どうしたの?」
優しい声を聞くととても苦しくなる
優しくされたくて仕方がないのに
優しくされるともっともっと優しくされたくて
言葉なんかじゃ足りなくてもっともっと傍にいてもらいたくて
幸村に釣り合わないとわかってるのに
我侭な気持ちだけが膨らんでどんどん醜い自分が現れる
「何でもない。」
「何でもない?」
鸚鵡返しに尋ねる幸村の口調はどこか淋しげだった
何だろう、どんどん気分は落ち込んで行く
「何でもないのに、ここで突っ立ってる気?」
「ううん。帰る。」
「何で? 俺を置いて帰るの?」
私が!?
「置いてかれてるのは私の方だよ。」
「?」
「私、この1年でどんどん幸村君と離れてくみたいで。
全然、全然幸村君と釣り合ってないって。
クリスマスだって、幸村君、テニスだし。
うん、わかってる。
幸村君の一番はテニスだってわかってる。
だけど私には何にもなくて
幸村君の迷惑にはなりたくないのに。
だからもっと大人にならなきゃいけないのに
でも、私、追いつけなくて・・・。」
支離滅裂な事を言ってるってわかってたけど
嫌われてもいいから吐き出してしまいたかった
モヤモヤしたまま幸村に置いていかれるなら
自分で何とかしなきゃいけないんだ
だけど、それでも私は幸村に助けてもらいたいんだ
「ごめん、。」
「うん。」
「少しの事、避けてた。」
幸村の言葉は予想外の言葉だった
私の周りから徐々に空気が薄くなる
「だけど、それはの事が好きだからなんだ。」
「えっ?」
見上げた幸村の顔は少しだけ赤みを帯びていた
私は息も付けずに幸村の口元を凝視した
だって、私の事、好きだって言ってくれた唇だから
「に会うと手を伸ばしたくなるんだ。
抱きしめて押し倒しての全てを自分のものにしたくなる。
何度も何度もを抱いてる夢を見る。
健全な男子だったら誰だってそう思うことでも
にクリスマスは二人で過ごしたいなんて言われたら
俺、何をやらかすかわからないくらいなんだ。」
「えっ/////」
「ごめん、こんな俺で。」
そんな風に悩んでるなんて全然知らなくて
私は何て言ったらいいのかわからなくて
でも自分が感じていた疎外感は間違っていた事が嬉しくて
思わず幸村の体に手を伸ばした
「私だってもっと幸村君の近くにいたいって思ってたよ。」
伸ばした手は瞬時に掴まれて私の体は幸村の腕の中へ閉じ込められた
自分じゃない、幸村の香りを胸一杯に吸い込んだ
きっともう息苦しくなんてならない
「、キスしたい。」
「うん。」
「一杯抱きしめたい。」
「うん。」
「それ以上も・・・。」
「えっ、そ、それは・・・。」
「ふふっ。大丈夫、急がないから。」
「うん。じゃあ・・・。」
「何?」
「クリスマスの夜は一緒にイルミネーションを観に行きたい。」
「うん、わかった。」
額にキスされてもう一度好きだと囁かれた
何の取り柄もない私だけど
幸村をこんなに私に夢中にさせてるなんて凄い事じゃないかと思う
多分もう私たちは一時だって離れたくない位好き同士なんだ
テニスコートに向かう間、隣に並ぶ幸村が
腰に手を伸ばしてきてバカみたいにくっ付いて歩くのが
たまらなく恥ずかしかったけど、とても幸せだと思った
The end
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☆あとがき☆
なんかいちゃいちゃ幸村が書きたかったんだけどな
当然校内試合では幸村が勝って
彼女は幸村にケーキを食べさせてもらったりすると思う
メリークリスマス!
2008.12.25.