初体験のお味はいかが?
「、こんなにお願いしてもまだ同意してくれないの?」
「幸村、邪魔。
部誌が書けない…。」
マネージャーのが心もち眉間に皺を寄せると、
傍らに寄り添うように頬杖をついたままの幸村がため息を漏らす。
「記念日なのに?」
「…。」
「1年前のは本当に可愛かったなぁ。
そりゃあ、俺はどんなだって好きだけどさ、
今年は付き合って1周年だよ。
彼氏の頼みなのに聞いてもらえないの?」
「…。」
「そんなに無理なお願いかなぁ。」
「無理。」
「やだな、頭ごなしに無理って言わないでよ。」
クールダウンが終わって部室に戻ってきた2年の赤也は
この異様な雰囲気にたじろいだ。
部屋の中にはいつものレギュラーメンバー。
すでに着替えて他のメンバーはおもいおもいに寛いでいるし、
奥の机に向かって幸村が、部誌をつけてるに寄り添ってる姿も
もうなんとなく珍しくはない光景。
真田はラケットのグリップテープを巻き直してるし、
ブン太はスナック菓子を漁ってるし、
仁王と桑原と柳生はボードゲームに興じてるし、
柳にいたってはを悠々と洋書を読みふけってる。
…が、なんともその光景はわざとらしくて、
先輩たちが幸村とに無関心を装ってるように振舞ってる姿が涙ぐましいくらいだ。
「だからさ、強要する訳じゃないけどさ。」
「してるじゃない。」
「俺のために試してくれたっていいじゃない?」
「試すとか試さないとかいう問題じゃないと思うけど。」
「大丈夫だよ。そんなに難しい事じゃないし。」
「だって大変な事だよ、私には。
幸村はわかってない!」
なんだか怪しい雲行きに赤也は、
一番手近にいたブン太のそばにそっと腰を下ろした。
「ケンカ中っすか。」
「はぁ?そうでもないだろ。」
「いや、でも先輩、嫌がってないっすか?」
「まあな。」
スナックの袋を赤也に差し出しながら
もう片方の手でブン太は足元のバックの中のジャンプを探り当てていた。
赤也はスナックをほお張りながらブン太がパラパラめくるジャンプを覗き込むふりをした。
けれど耳には全神経を集中させて、幸村との会話を聞き漏らすまいと固唾を呑んでいた。
「学校でやってもいいんだけど…。」
「はぁ?無神経な事言わないで!」
「じゃあ、の家?
俺としては俺んちでやってほしいな。」
「なんで幸村の家で…。」
「初体験が俺のうちなら安心できるかと思ってさ。
俺、男にしてはその辺のテクニックは並じゃないと思ってるし。」
初体験…、その言葉にゲホゲホと赤也が咳き込んだ。
「赤也。大丈夫?」
幸村が心配そうにこちらを覗ったようだが
頭の中で暴走する妄想が邪魔をしてどうにもこうにも返事が出来ない。
「そう言えば赤也もバレンタインデーにはもらったんだろ?
こういうのって普通は口に出さなくても解るもんだと思ってたんだけどね。」
「な、何言ってるんスか、ぶ、部長!」
「ふふっ、聞いたよ、赤也。
赤也のところは彼女の方が積極的だったんだよね?
経験豊富な女の子って感じでさ。」
赤也は思わず去年のバレンタインを思い出して赤面した。
な、なんで部長があの事を知ってるんだ!?
確かに赤也の彼女は手作りチョコを胸に抱きしめたまま、
「私の事も食べてね。」なーんて可愛く告白してきたものだから、
本能の赴くままに自分の部屋に連れ込んで、
その甘い蜜のような彼女を頂いてしまったのだが…。
「や、やだな、先輩。
そ、そんな事こんな所でバラさないで下さいよ!」
「恥ずかしがらなくたっていいのに。
ふふっ、今年のバレンタインも期待してるんでしょ?
いいなぁ、赤也は…。」
幸村の言葉に、今年はもうちょっと雰囲気出そうかと思って、
ラブホにでも行こうかと考えていた赤也は、
緩みっぱなしの顔を幸村に向けていた。
ところが、そこへ突き刺さるようなの視線を感じて、
赤也はとたんに背筋が冷たくなる思いだった。
先輩が…怒ってる!?
「ほら、赤也だって楽しみにしてるくらいなんだから、
俺にも赤也の千分の一でもいいから
幸せな気分にさせてくれない?」
「だから嫌だって言ってるでしょ。
そんなに食べたかったら赤也の彼女にお願いしてみれば!」
バンと部誌を机に叩きつけるはプイと横を向く。
待て待て待て!?
いくら先輩の頼みでもそれはないっしょ!
慌てた赤也は憤然と幸村に食って掛かる。
「いや、なんでこっちに矛先向けるんスか?
いくらなんでもそれはダメっス!!
幸村部長もそう言う事は公衆の面前でお願いする事じゃないっスよ。
先輩だって返事に困るじゃないっスか?
って、先輩も先輩ですよ。
初体験なんてやってみればぶっちゃけどうってことないって。
それに俺、明日はもう予約…。」
「ほう? 赤也は明日のバレンタイン、
部活休む気だな?」
柳の合いの手に赤也はぎこちなく首だけ柳の方へ向いた。
明日、早退するのがバレた!?
「やれやれ、そう言えば去年のバレンタインデーも赤也は早退したけど
そういう理由だったの?」
「うっわぁ〜、こいつ最低。
告白された日にやるかよ、普通?」
レギュラーの面々に白い目で見られ、赤也は生きた心地がしなかった。
なんで?
なんで俺が非難されてんの?
「信じられない。
どこをどう聞いたら私たちの会話がそうなるのよ。
バカ也!!」
もう完全に軽蔑してるような目で先輩に咎められ、
赤也が幸村の方を見ると、
人の気も知らないで思いっきり笑いを堪えてる。
「若いのぉ〜。
赤也の頭の中にはエッチな事しかないんじゃろう。」
仁王に言われるとさすがの赤也も腹が立ってきた。
「なんスか。
じゃあ、じゃあ、初体験って何のことっスか?」
「たわけが!」
「幸村君はね、さんに手作りチョコをねだってたんですよ。」
「が、不器用だから市販のチョコで誤魔化そうとしてるのを
幸村が作らせようとしてるんだとよ。」
「全く、こいつらの会話に首を突っ込むんじゃねーよ、バカ也。」
ああ、ああ、もう絶対先輩の心配なんてしてやるもんか。
そう思う赤也だったが、翌日こってりとしぼられたのは言うまでもない。
☆おまけ☆
「ねえ、バレンタインに手作りってこだわらなくてもいいんじゃない?」
「いいから、いいから。
こうして二人で作って食べるのがいいんだよ。」
「幸村ってオトメチックだよね?」
「不器用な誰かさんよりはね。」
「じゃあ、これからは毎回幸村に作ってもらうってのはどう?
私、作るより食べる方が好き。」
「クスッ。実は僕もそうなんだけど?
僕のデザートは自身だからね。」
「えっ?」
「だから、毎食後ってことだから、覚悟してね…。」
The end
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☆あとがき☆
いやもう何でも好きにしてくれて構わないから////
赤也を苛めて楽しむ幸村が好きだよ〜。(笑)
2007.2.13.