――― 支配者 ―――












「皆、お疲れ様。」







夏休み明け。



名門、立海大テニス部の部室には、久々に部長である幸村の姿があった。



にこやかに、周囲のテニス部員へと視線を流し、最後に隣に立つ副部長の真田へと頷く。

そして、正面を向き直るとはっきりとした口調で言った。





「皆には迷惑を掛けたけれど、俺も今日からは正式に部に復帰できる。よろしく頼む。」





その言葉に、レギュラーをはじめ、部員たちは嬉しそうな顔をみせた。

それに対し、幸村も笑顔を返したが「それにしても」と一言低い呟きを漏らすと、今までよりもいくらか薄い笑いを浮かべた。





「関東大会は、随分な成績だったね?いくら俺が居なかったといっても、あまりに不甲斐なさすぎだと思わないか?」


「いや!幸村、あれは・・・」


「なんだい?丸井。もしかして、俺の手術が心配で試合にならなかった・・・

 なんて、そんな嬉しいことを言ってくれるわけじゃないよな?」





そう言う幸村の言葉とは裏腹に、彼の瞳は笑っていなく ―――






レギュラー陣はもとより、一般部員までもが下を向いて青ざめてしまう。

テニス部員なら、誰もが知っている。この天使の様な顔をした部長の裏の一面を。





「幸村。」


「なんだい?真田。」


「すまなかった。お前の留守を守りきれなかったのは、俺の責任だ。」


「そう。」


「いや、弦一郎だけの責任ではない。俺も貞治に負けた。」


「うん。柳と、あと赤也もね。」





幸村がちらりと切原を見ると、切原はビクリと身体を震えさせた。





「俺たちはね、負けることは許されないんだよ。」





幸村が静かだが厳しい表情で言うと、真田も真面目に返す。





「分かっている。」


「うん。信じているよ。でね、俺なりに敗因を考えてみたんだ。

 それで、1つ決定したことがあるから、皆へ発表しておくよ。」


「・・・・何だ?」





言葉の内容に引きかえ、幸村の口調が奇妙に明るくて、真田たちが怪訝な顔をする。

そんな彼らの表情など気にした様子もなく、幸村は満面の笑みを浮かべて、言った。





「俺たちをサポートしてくれる、マネージャーを入れることにした。」


「何・・だと?」


「真田、聞こえなかったのかい?マネージャーを入れると言ったんだ。」


「それは聞こえたが、精市、お前本気か?」


「ああ。」


「いや、でも・・・」


「何か問題でも?」





間髪いれずに問い返してきた幸村に、今度は柳が言う。





「精市、待ってくれ。今までもマネージャーの検討はしてきたが、結局は無駄だった。

何故なら、立海テニス部でのマネージャー業を純粋にやってくれる女性徒の確立は・・・」


「ああ、そうだね。なぜか俺たちテニス部員は人気があって、どうしても邪道な気持ちでの入部が多い。」


「そうっすよ。先輩たちの人気は凄いんすから。」





切原がそう言うと、幸村は微笑む。





「そういう赤也だって、何気に人気者なんじゃないか?」


「ああ、そうだな。不二との試合以来落ち着いたお前にファンは増えている。」





柳が頭の中からデータを弾き出す。





「ただでさえ、精市がいるというだけでマネージャー志望は後を立たないというのに。

 この状況でマネを探すなど無理に決まっているだろう。選別が難しいぞ。」





眉を寄せてそう言った柳に、幸村は平然と答える。





「選別なんて、する必要はないさ。」


「何故だ?」


「もう、マネージャーは決まっているからだよ。」


「「「「「は?」」」」」





幸村の言葉に、皆が驚きの声を上げる。





「どういうことです?幸村君、説明して下さい。」


「そうだぞ。いくら部長だからといって、お前が勝手に決めていいもんじゃないだろう?」





柳生とジャッカルが次々に言うと、幸村は笑った。





「ああ、ごめん。でも、皆はきっと反対なんてしないよ。」


「どういうことだ?」


「だって、皆、良く知っている人だからね。」


「誰なんスか?」




怪訝な表情の仲間を面白そうに見て、幸村は言葉を続ける。





「この間まで、合同学園祭で、俺たちの手伝いをしてくれた運営委員のさん。」


「「「「「 !!! 」」」」」


「ふふ。何をそんなに驚いているんだ?俺がをスカウトしたのがそんなに不思議かい?」


「「「「「「?!」」」」」


「皆、仲がいいね。そんなに声を揃えなくっても良さそうなものを。」





楽しそうに微笑んで、幸村は言う。





「学園祭の状況を電話で教えてもらったりしているうちに、名前で呼ぶようになったんだよ。

 そんなに驚くほどのことじゃないだろう?俺の他にも、のこと名前で呼んでいるヤツもいるし。」





そう言って、幸村は少し危険な笑みを浮かべる。

それだけで、彼の気持ちはレギュラーたちに痛いほど伝わる。





「彼女の働きは、皆も知っての通りだ。彼女がマネージャーになることに反対の者はいるか?」


「問題は無い・・・

 しかし、の意見も聞かないと。」





真田が相変わらず渋い顔で言うと、幸村はそれと対極な笑みを浮かべる。





「もちろんOKだって。」


「何?」


「この間、偶然あった時に聞いておいたんだよ。」


「・・・・・・・」



「何か言いたそうだね?真田。」


「・・・・いや。」


「いつの間に俺とが仲良くなったのか?そんな顔をしているよ?」





絶句してしまった真田を満足気に見たあと、幸村は他のレギュラーたちへと視線を流す。





「皆が、学園祭で楽しんでいた間、俺も楽しませてもらったよ。

 何かと、にちょっかいを出していた奴も多かったみたいだけど・・・

 俺もこれからは本気でいくからね。」


「なっ・・・幸村部長!そりゃ無いっすよ。」


「何がだい?赤也。俺は別にを狙うななんて言ってないよ?

 ただ、俺が本気だって皆に伝えたかっただけだよ。」


「くっ・・・」





その言葉に、狙いの他部員が苦い顔をする。





「じゃ、マネージャーはさんにお願いするってことで決定だな。

 真田、一応顧問にも言っておいて。彼女には明日にでも入部届けだしてもらうから。」





晴々とした表情で告げる幸村と、対照的な部員たち。

そして、それに追い討ちをかけるように幸村は笑みを増して言った。





「あ・・・それから。

 明日からの練習は厳しくいくからね。もう2度と負けることは許されないよ。

 じゃ、解散!」






















「久々の学校で疲れたのではないか?」





他の部員は帰り、真田は顧問へと決定事項を告げに行った。

部室には幸村と柳の2人だけ。

自分を気遣うように行った柳へ、幸村は笑顔を返す。





「いや、とても楽しかったよ。」


「そうか。なら良かった。

 しかし、まだ本調子じゃないんだ。無理は禁物だぞ。」


「分かってるよ。」


「それにしても・・・」


「何だい?」


「うちの部で、本気のお前に張り合えるヤツの確立は2.5%だぞ?」


「ふふ。」


「知っていて言ったな?」





涼やかに笑った幸村へ柳は呆れた顔を向ける。





「まぁ・・・ね。は誰にも渡すつもり無いから。」





静かに告げられた言葉だが、その内に熱い想いを感じ取って、柳はくすりと笑う。





「柳?」


「いや、すまない。精市がテニス以外でこんなに執着するのを初めて見たからな。」


「そうだな。

 きっと、今までの俺だったら、こんな行動は取らなかったと思うよ。

 でも、病気をして思ったんだ。後悔しないよう、何事も全力で生きよう。

 自分の気持ちに正直にいこうって、決めたから。」


「そうか。いい事だと思うぞ。」


「ありがとう。

 だから・・・いくら相手が君や真田であっても、は譲らないよ。」





どこか楽しげな瞳で幸村に見つめられ、柳は苦笑を返す。

ほんの少し。自分でも気付かない程度。に惹かれ始めていた自分の感情を、幸村はちゃんと気づいていたのだ。





「お前を相手に戦う気なんてないさ。」


「そう?俺の計算だと2.5%の中に柳も含まれているんだけどね。」





くすくすと笑う幸村に柳は降参のポーズを取る。

中学から仲間として付き合ってきた幸村のことなら、誰よりも認めている。

こんな相手と戦う気など起こるはずもない。

見方につけた方が得というものだ。





そんな柳の心の内を知ってか知らずか、幸村は「まぁ、いいよ。」と言いながら部室を後にした。






















が無事テニス部マネージャーになり、幸村が周りを牽制しながらも楽しい時間が始まる。

それぞれ思う事はあるが、彼女がマネージャーになったおかげで更に練習に気合が入ったのは事実。

明るく可愛らしい異性というのは、たとえそれが誰かのモノであろうと、いい格好を見せたいものらしい。

そしてまだ、は誰のモノでもないのだ。





――― しかし、それも時間の問題。





「幸村部長、今日のメニューなんですが、コレで良いんですよね?」


「うん。そうだよ。」


「・・・・皆、平気ですかね?」





かなりハードなメニューに目をやりながら、は少し心配そうな顔をする。





「大丈夫だよ。あれでも立海大のテニス部員なんだからね。

 まぁ、多少はへばるかもしれないけれど、平気だろう。」





あっさりと、そう言ったあとに幸村はほんの少しだけ考える素振りをみせる。





「でも・・・そうだな。

 気力回復のために、の特製ドリンクは用意しておいてくれると助かるかな。」





爽やかに笑った幸村に、は素直に頷いた。

そして くすり と笑う。





「どうかした?」


「いえ。なんだか、嬉しいなぁって。」


「嬉しい?」


「はい。まさか文化祭が終わったあとも、こうやってテニス部のお手伝いが出来るなんて思ってなかったから。

 幸村部長が、私をマネージャーに誘って下さるなんて思わなかった。」


「そう?俺はを見て、すぐに決めたけど。」





幸村がそう言うと、は再度笑う。





「ん?」


「あと、もう1つ。」


「もう、1つ?」


「まさか、自分が幸村部長に名前で呼んでもらえるなんて、思ってなかったんです。」




にっこりと笑ってそう告げたは本当に嬉しそうで、可愛くて。



幸村は、自分の気持ちが溢れだすのを感じる。





「そう?俺はずっとのことを名前で呼びたいと思ってたよ。」


「・・・・え!?」


「そんなに意外?」


「あ・・・いえ。そんなこと無いです。」





真っ赤になってしまったに、幸村の笑みは濃いものになる。





「じゃあ、これから言う言葉は、をもっと驚かせるかもしれないな。」


「え?」


「今度、俺とデートしない?」


「・・・・・・・・・・」


?」





自分を凝視したまま固まってしまった愛しい彼女を、幸村は優しく見つめ返す。

その視線にとらわれた様に、の頬は赤く染まるが頭の中は混乱していて口は開けど言葉にならない。





「あ・・・あの・・・」





戸惑った表情の中に光り輝く瞳を見つけ出し、幸村は安堵するがそんなものは表に出すことはなく、こう言った。





「意外だったかな?俺がデートに誘うのは。」























2人の幸せな時間は、すぐそこまで近づいてきていた。













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★あとがき☆


当サイト、70,000Hit感謝企画にて、先着3名さまへリクを募集したところ
キノさんがゲットして下さいました〜vv有難うございますvv

で、リクの内容なんですが。

ダークエンジェルな幸村。
他のメンバーに圧力かけまくりでヒロインをゲットして欲しいです。
でも彼女には

『意外だったかな?俺がデートに誘うのは。』

なーんて白々しくさらっと言っちゃうわけさ。

と、いうものでした。
学プリで幸村熱が熱かったとのことvv私も同じです♪

しかし、出来上がってみたら全然ヒロインと絡んでない!
慌てて、キノさんにお伺いを立て、泣きをいれました(ぉぃ)

こんな月夜ですが、キノさんこれからもヨロシクです。





☆お礼
 このたびはずうずうしくも70,000Hit感謝企画でリク権をいただき
そしてさらに黒幸村ドリをおねだりして風さんを悩ませたこと、
この場をお借りしてお詫びすると共に(笑)
素敵な作品に仕上げていただき感謝する次第です!!

学園祭の王子様の幸村そのままで、
これから展開するであろうマネージャーとしての日常を思うと
もう脳内妄想細胞が満足気に活性化しています///(笑)

本当にありがとうございました。

これからもずっと風さんのファンでいさせてくださいませvv
             木之本桜より