今日はのバースデー。
特別な予定があった訳じゃないけれど、バイトは休みにしてみた。
本当は春休みだから稼ぎ時なのだけど・・・
――― ドキドキ ―――
それにしても、バースデーが春休みだなんてツイテナイとは思う。
クラス変えで仲良しの子が出来た時には誕生日は終わっているし、そうじゃなくても休み中は忘れられがちだ。
今回も、親友のから日付が変わるのと同時にメルが届いたけれど、他の子たちは案の定、忘れているらしい。
まあ、自身も夏休みが誕生日の友達のお祝いを忘れていた口なので、何とも言えないのだが。
やっぱり損していると思わずにはいられない。
今日は1日のんびり好きなことだけやって過ごそう。
そう決めていたは、この間買った漫画へ手を伸ばす。
これを読んで、その後はゲームをやって、それから買い物へ行こう。
この間 と行った店に可愛い服があったんだよね。
そんな風に、1日の予定を考えていると電話のベルが鳴り、下から母親が呼ぶ声がする。
「ちゃん、電話よ〜。」
「私に?家にかけてくるなんて勧誘とかじゃないの?」
部屋のドアを開けて、下に向かって叫ぶ。
「違うわよ。バイト先からよ。早く出なさい。」
「はーい。」
休みの日に電話なんて珍しいな。何かあったのかな?
そう思いながら、は廊下に備え付けの子機を取った。
――― それが、全ての始まりだった。
「ちゃん、悪いわね。急に田中さんが来られなくなっちゃって。」
「いえいえ。風邪じゃ仕方ないですよ。困ったときはお互い様だし。」
「そう言って貰えると助かるわ。予定だってあったでしょう?本当に有難う。」
「大丈夫ですよ〜。」
がアルバイトをしているのは、学校のすぐそばのケーキ屋さん。
高1から勤めているので気心が知れている。
店長も奥さんも良い人で、アットホームな雰囲気がバイトを長続きさせているのだろう。
は制服に着替えて店に出る。
店は3席だがイートインスペースがあり、今はそのうち2席が埋まっていた。
そして、ショーケースの前におばさんが1人。
慣れない手付きで対応をしているのは、店長の息子でありパティシエの浩太。
「浩太さん。私がお店の方 入りますよ。」
が声を掛けると、浩太は ほっとした表情になった。
よりも5つ年上の浩太だが、可愛らしい雰囲気を持った人だった。
「ちゃん、来てくれたんだ。助かったよ。」
「あはは。浩太さん顔が引きつってますよ?」
あまり接客に慣れていない浩太へからかうように言ったに、彼は親し気な笑みを向ける。
「どうも接客って苦手なんだよな。自分の作ったケーキを選んでるお客さん見てると緊張しちゃって。」
「ふふ。テストされてる気分ですか?」
「うん。まぁ、そんな感じかな。」
そんな会話をする2人に、客も笑顔で「いつも美味しく頂いてるわよ。」と言いながら6個のケーキを買って行った。
「良かったですね。美味しいって。」
「ああ。自信はあるつもりだけど・・・正直、安心したよ。」
照れ笑いする浩太へ、も笑顔を見せる。
「そういえば、今日はちゃんの誕生日だったよな?」
「うわ。良く覚えてましたね。」
「・・・そりゃ、あれだけ言われればなぁ。
なんて、嘘。俺がちゃんの誕生日を忘れるはずないだろ。」
「うわ。浩太さんってば上手いなぁ〜。」
1週間くらい前に冗談で、プレゼント下さいね。と言ったことを思い出しは笑う。
「期待してろよ。」
「え?」
「プレゼント。」
浩太は いたずらっぽく笑いながら、厨房へ戻ってしまった。
浩太の言葉に驚いただが、気を取り直して店内へ視線を走らせドキッとする。
の視線の先に、見知った顔がいたのだ。
それは、綺麗な笑顔と、蒼い瞳が印象的な男の子。
――― 不二 周助
の好きな人だった。
「コーヒーのおかわり、いかがですか?」
は内心のドキドキを隠して、不二へと声を掛ける。
「あ、私いただくわ。」
不二の前の女性が答えて、そこで初めては不二が1人で無いことに気付く。
『綺麗な女性(ひと)』
それは、不二と並んでも全く霞まない美貌の持ち主だった。
歳が少し離れている気がするが、とてもお似合いのカップルだった。
「僕も、もらおうかな。」
そう言いながら、不二がに笑顔を向ける。
「さん、ここでバイトしてたんだ。久しぶりだね。」
「あ・・・うん。」
コーヒーを注ぎながら、も笑みを返すが前の女性が気になって ぎこちないものになる。
「あら、周助の知り合いなの?」
「うん。クラスメイトだったんだ。」
「ふふ。そう。可愛らしいお嬢さんね。」
なにやら親し気に話す2人を見ていられなくて、は逃げるようにレジへと戻った。
暫くして不二が店を出るまで ――― いや、その後も、2人の関係が気になって仕方が無かった。
「ちゃん。どうかしたの?」
「あ・・・いえ。なんでも無いです。」
「でも・・・なんだか元気が無いみたい。」
奥さんが心配そうにを見つめる。
「やっぱり、お休みのところ急に呼び出されて疲れちゃったわよね。
もう大分落ち着いたし、上がってもいいわよ?」
「本当に大丈夫ですよ。田中さんのシフト、確かあと1時間先でしたよね?最後までやらせて下さい。」
「そう?ウチは助かるけど・・・」
まだ心配そうに言う奥さんへが笑顔を見せると、厨房から箱を抱えて浩太が出てきた。
「ちゃん。今日はもう上がりなよ。」
「え?」
「途中から元気なかったよな。いつものちゃんらしくなかった。」
「それは・・・」
言葉を濁したへ、浩太は持っていた箱を差し出した。
「?」
「バースデープレゼント。」
「え・・・」
「まぁ、俺の作ったケーキだけど良かったら彼と食べてよ。」
浩太の言葉に、は悲しげな顔をして首を振る。
「彼なんて、いないですよ。失恋したばかりだし・・・」
が答えると、浩太は くすりと笑った。
「じゃあ・・・さっきから店の外で、俺のことを睨んでる男は誰なんだろうな。」
「・・・・・え?」
振り返ったの瞳に映ったのは、ジッと店内を見つめている不二だった。
とまどうの背中を、浩太が軽く押す。
は、不二へと向かって歩き出した。
「不二くん・・どうした・・の?」
「さんに、伝えたいことがあって。」
「え?」
「おめでとう。
今日、お誕生日だったんだね。さっき、あの人と話してるのを聞いて初めて知ったよ。」
不二が店内の浩太を目線で示して言う。
「あ・・・うん。有難う。
あの・・・それだけのために、わざわざ?」
「うん。どうしても、言いたくてね。」
笑顔で告げた不二に、は顔が赤くなるのを抑えられない。
「さん、あの人と付き合ってるの?」
「えっ!?違うよ!」
「良かった。僕、さんのこと好きなんだ。」
不二の言葉の意味を理解できなくて、の頭の中は混乱する。
一体、彼は何を言っているのだろう?
「ふ・・じくん?」
「うん?」
「今、なんて・・・」
「僕は、君のことが好きです。って言ったんだよ。」
「だって・・・さっきの人は・・・」
が困惑顔で問うと、不二はちょっと考えた顔をして笑った。
「ああ、姉さんのこと?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・お姉さん?」
「うん。さっき一緒にケーキを食べていたのは、僕の姉さんだよ。
もしかして、誤解してたの?
僕のこと、気にしてくれてたって、うぬぼれてもいいのかな?」
ふふ。と春風のように爽やかな笑みを浮かべる不二に、はコクリと頷いて小さな声で言った。
「私も、不二くんが好きです。」
少し早めにバイトを上がらせてもらったは、不二と2人で公園のベンチへ座っていた。
浩太から貰ったケーキを広げて、お店からもって来た使い捨てのフォークを握る。
ローソクを立てようとしたの手を、不二が優しく止めた。
「?」
「今日は、ローソクは無し。」
「どうして?」
「今日は始まり。2人が付き合いだした記念に、来年の今日、2人で1本のローソクを立てよう?」
優しくい囁いた不二に、が真っ赤になったのは言うまでもない。
★あとがき★
木之本桜さんのサイト 『Reincarnation』さまとの相互記念で
不二くんをリクエストしていただきました〜。
そのリクと言うのがコチラ↓
誰にもお祝いしてもらえないと思っていたのに
ふとしたきっかけでケーキやさんで2人でケーキを食べるはめに。
で、彼に…
「このケーキにはローソクはないけど、
来年の今日、ケーキに1本ローソクを立てよう!2人が付き合いだした記念に。」
みたいな事を言わせてください。
というものでした。
なんか、全然違ったものになってしまった。
ケーキやさんでケーキ食べてたのは由美子さんだし(笑)
私にはこれが限界です^^;
こんな私ですが、キノさんこれからもヨロシクです。
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☆お礼のあとがき☆
私のわがままなリクを素敵な誕生日ドリにしてくれて
本当にありがとうございました。
それも私の大好きな不二君にお祝いしてもらえて感激です。
風さんも不二至上主義でいらっしゃるから、
個人的に私の誕生日を不二君にお祝いしてもらうのは心苦しいなぁと思い、、
敢えてリクエストの相手は指定しなかったんです。
でもでも、リクの相手役が不二君で、もうそれだけで感激もひとしおでしたvv
だってねえ、甘い台詞を言わせたらやっぱり不二君が一番だと思うし…。
私もやっぱり不二君が一番好きなわけだし…。
風さんの書くドリームが大好きです。
これからも一読者として応援してますので
素敵な夢をたくさん書いてくださいね! 楽しみにしてますvv
2005.2.12. 木之本桜より