クラスメイトの
客観的に見ていつも元気で明るい子だな、
そう思っているだけだった・・・。
「うっそ、そんなの聞いてないよ!」
現国教師の突然の言葉に菊丸英二はあっけに取られた。
「フフっ英二、残念だけど小テストの範囲は先週発表されてたよ?」
「そんにゃぁ・・・。」
英二一人が焦っても今日の漢字の小テストが延期になるはずもなく、
ほとんど白紙の状態で提出することになってしまった。
このテストの最低ラインは70点。
小テストなので問題にすると20問。
そのうちの7割取れなければ
間違った漢字一つにつき1ページ書いて提出しなければならない。
「もう駄目にゃ、絶対ノート提出だっ。」
列ごとに一度答案用紙が回収されて、
教師ではなく自分以外の人間がランダムに答えあわせをする。
「はぁ、俺の答案誰が丸付けしてるんだろ。」
漢字が書けない自分が恥ずかしい。
丸付けが済むと再び回収。
先生が70点未満の用紙をチェックすると持ち主に返される。
自分の名前が呼ばれた。
英二は諦めてため息をつきながらソレ受け取る。
ところが彼の答案は70点を超えていた。
なんで?
確かにほとんどが空白だったはずのところに
多分女子のところに渡っていたのだろう
男の子の字を真似たのか、少し雑な書き方で正確な答えが付け足されている。
思ってもみなかった展開に英二は目を丸くした。
「英二、よかったじゃない。
英二の答案 さんが見てくれたみたいだよ。」
本人の為にはならないけどね、と言って不二が笑った。
「 だったんだ・・・。」
多分本人は英二だからそうしてくれたわけではないのだろうけど
英二には単純に嬉しかった。
「 ー、ありがとさんっ。」
休み時間になると英二は のところへ飛んでいった。
は何のことだか、ポカンと英二の顔を見る。
「ノート提出免れたよ。サンキュね。」
「ううん、どういたしまして。
女子の間ではね、そういう協定が結ばれてるのよ。
自分の答案が行ったらよろしくねって。」
は英二の嬉しそうな顔を見て
「それにしても白いとこ多すぎ」と言って苦笑した。
その日以来英二は事ある毎に の方に目が行くようになる。
ある日のお昼休み、 が仲良しグループでお弁当を広げているところに
通りすがった英二は の弁当に目を留めた。
「おぉっ美味そう、いっただきーっ。」
の弁当箱からエビフライをつまみだすとポイッと口に放り込んだ。
「あぁぁぁっ、私のエビフライーっ
酷いよ最後の一つ大事に取っておいたのに(涙)」
「なぁーんだ、残ってたから嫌いなのかと思った。」
「違うよ、大好きだから後で食べようと思ったのに。」
はムーッと膨れて本当に悔しそう。
その反応が子供みたいでなんだか可愛らしい。
のいつもと違う顔を見た英二は、
心に暖かいものを感じながらそれでも責められる前に逃げた。
「残念、無念、また来週ーっ。」
を見ると嬉しくなる。
話せば顔がほころぶ。
彼女の仕草にドキドキしてしまう。
時が経つにつれ英二の気持ちは次第にはっきりしてきた。
「俺、 のこと好きになっちゃったかも。」
いつもの元気はどこへやら、不二を前にして大きなため息。
「どうしたの、英二らしくないね。
好きなら好きって言えばいいじゃない。」
「にゃっ言えないよ、そんな急に・・・。」
「フフっじゃぁ決まり。
お昼に さん誘うからその時告白ね。」
「ちょっ不二ぃーっ。」
不二が言い出したらもう止まらない。
いつのまにかお昼は のグループと一緒にとることになっていた。
とは言っても の友達の不二ファンにお昼を誘われた不二が
告白されては面倒なので
「じゃあみんなで食べようね(ニッコリ)」
と言ったところの『みんな』の部分に英二を使っただけなのだが・・・。
英二がそんなことに気づくはずもなく、
「不二ってホントいい奴だにゃ。うっし、頑張るゾ。」
と張り切っていた。
・・・・・・ところが
いざ と二人きりになると、告白の「こ」の字も出てこない。
今度は本当に不二の計らいで英二は を連れて屋上に来ていた。
場所取りと言う名目で。
「じゃぁ僕たち購買部に寄ってから向かうから
英二と さんは場所を確保しておいてよ。」
不二に言われて二人で屋上へ向かうと、
そこにはまだ誰一人の姿も見当たらない。
その状況に英二は異常なほど緊張していた。
「・・・どうしよう、いつもみたいな会話すら出てこない・・・。」
緊張のあまり何をしゃべったらいいのか分からず、間が持たない。
仕方がないので英二は先にお弁当を食べようと催促する。
「もぅお腹ぺっこぺこだにゃっ、先に食べちゃおうよ。」
「え、みんな待ってたほうがいいんじゃないの?」
「いいのいいの!じゃーんっ今日は何と俺の大好きな
ぷりぷりエビフライなんだぞっ。」
英二はお弁当のフタを開けながらようやくいつものペースを取り戻す。
告白の事などすっかり忘れているのではないかと思うくらい
嬉しそうな顔をする英二を見て、 はほくそえんだ。
そして横から手を伸ばすと英二ご自慢のエビフライをつまみ上げた。
「いただきっ」
はこの前の仕返しに一気にそれを口の中に押し込む。
その速さはまさに神業。
あまりに一瞬の出来事に、
英二はぽかんと口を開けたままその光景を眺めるしか出来なかった。
そして我に返るとこの世の終わりのような顔をしてがっくりとうなだれる。
その姿があまりに可哀相になり、 は英二の顔を覗き込んだ。
「ごめん、そんなに落ち込まないでよ。」
「もぉーーーっ、俺のエビフライ返せっ。」
が謝る側から英二は本気で返せと に詰め寄る。
「だって、もう食べちゃっ・・・んっ。」
“食べちゃったもん”と言い終わる前に唇を塞がれた。
英二の唇によって。
は呆気に取られる。
何が起こったのか分からずに。
「うん、今日のエビフライも美味しかった。」
英二は満足そうに笑う。
照れ隠しなのか、大袈裟なほど。
しかし はそれを見て突然怒り出した。
少し頬を染めながら。
「じゃぁ私のあの時のエビフライも返してよ!」
英二は突然声を荒げた に焦ったが、
言葉の内容に満面の笑みで答える。
「いいよ、でも自分で取り返しにおいで。」
そう言って両腕を広げた。
躊躇いながらその腕の中に身を寄せる 。
英二は嬉しくて腕の中の彼女をぎゅっと抱きしめた。
こうして、英二のLIKEはLOVEになり
二人はLOVERSになった。
少し前に屋上に着いて一部始終見ていた不二と取り巻きの女の子達に
気づかなかったのは予定外だったけど・・・。
FIN
あとがき
相互記念と言うことでReincarnationの管理人木之本桜さまへ捧げます。
私のテニプリ原点の菊丸英二くん。
そのわりには菊ちゃんメインで書いたことないのですが、
桜様より「カッコイイ菊ちゃんが読みたい」とのことだったので初菊です。
カッコイイかどうかも謎ですが、いかがでしたでしょうか・・・(不安)
こんな駄文しか書けない遊月ですが、これからもよろしくお願いしますね。
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☆お礼☆
『恋愛空間』の管理人・遊月華林様から菊丸ドリを頂きました。
うちでは何かとサブキャラ的存在だったので、菊丸をこんなに素敵に書いてもらえてとても嬉しいです。
LIKEからLOVEへと変化する菊丸の素直な気持ちが鮮やかに描かれてるなと思います。
ありがとうございましたvv