立海大付属テニス部は今朝も元気に活動をしていた。
 

 

 

 

--- カップケーキ ---

 





ここ、立海大付属テニス部は関東No.1で全国大会常連。
そして、ここ2年は負けなし。常勝立海大の名を欲しいままにしていた。



この名門テニス部を支えているのは、1年のときからレギュラーとして活躍していた
部長の幸村と副部長の真田2人の存在が大きかった。



この2人、見た目も中身も正反対である。



幸村が儚げな美少年タイプなのに対し、真田は高校生にはとても見えない渋さを持ち、
幸村は優しい話し方をするが、真田は少し時代に遅れた固い話し方をする。

そして、テニスでも2人のプレイスタイルは真逆に位置した。

繊細な技を得意とする幸村に、豪快な技を得意とする真田。



これだけ、全てが違うというのに何故か気が合うらしい。

多分、テニスに妥協することを知らないお互いの気質を感じ取っているのだろう。
2人は親友と呼べる間柄だった。



しかし、ここまで違う2人だったが、実は1つだけ同じものがあった。

それは今のところ、幸村しか気付いていないのだが・・・


















、悪いんだけどちょっとテーピングしてくれるかな?」



幸村はコート内を忙しそうに動き回る少女に声をかける。


と呼ばれたその少女は、長い黒髪をポニーテールよりやや低い位置で1つに纏めた可愛らしい子だった。



幸村の言葉に手にしていたテニスボール入りのカゴを置くと、心配そうに彼の側まで駆け足でやってくる。



「幸村くん?どうしたの?」


「うん。ちょっと ぶつけてしまったみたいなんだ。」



そう言って、幸村は右手を握ったり開いたりして見せると、顔をしかめた。



「ちょっ・・・大丈夫なの?ちゃんと冷やした?」



そう言いながらは幸村の腕を引いてベンチまで連れて行く。



「軽くぶつけただけだから大丈夫だよ。」



くすっと笑って言った幸村をは睨み付けた。



「ダメだよ、甘くみちゃ。幸村くんはいつだってそうなんだから。」



ぶつぶつと文句を言いながらコールドスプレーを取り出したを、幸村は幸せそうに見つめた。
























幸村の治療を終えて、は再びテニスボールの入ったカゴを持って歩き出す。

あまり大きいとはいえないが重い荷物を両手にぶら下げて歩いている姿はなんとも言えず
真田は思わず声を掛けそうになって、ため息をついた。



『俺は何度同じことをしたら気が済むんだ。』



1年の頃から、は今のように危なっかしい足取りで良くテニスボールを運んでいた。

そのの手からカゴを1つ取り上げて、手伝おうとしたことがあった。
真田としてみれば、もちろん善意で行ったことだ。
しかしの口から発せられたのは ―――



「マネージャーの仕事なんだから余計なことはしないで!」



そんな言葉だった。



自分の善意を無下にされたのだが、真田は嫌な気がするどころかの意見の方が正しいと
自分の行動の否を素直に認め、素直に詫びた。



しかしが大変そうにしているのを見ると、どうしても声を掛けてしまうのである。
そして、やはり怒られる。



真田がそんな行動を起こすのはにだけ。
少し考えればおのずとその理由はわかりそうなもの。



しかし、堅物の真田にそれは無理な話だと幸村は後ろから観察しながら笑みを浮かべた。



『弦一郎は要領が悪いからな。
 を休ませてあげたいのなら俺のように頭をつかえばいいのに。』



そんなことを思いながら、幸村は右手にまかれたテーピングを愛しそうに見る。
そして、治療の時に触れたの指の感触を思い出す。



の手・・・俺のよりも一回りも小さくて真っ白で・・・
 毎日、マネ業を頑張っているから荒れていても おかしくないのに柔らかくて。』



そんなの手を守ってやるのは自分でありたいと思う。



       あの柔らかい手に触れるのも
       あの艶やかな髪に触れるのも
       可愛い声で名を呼ばれるのも
       優しい笑みを向けられるのも



それは全て俺だけ。
決して弦一郎や、まして他の部員になど渡しはしない。



幸村は真田の向こうに見えるを見つめながら決心した。


























幸村は友人数人と一緒に調理室から出てきたを見つけて声をかけた。

周りからは「幸村くんよ。素敵〜。」という声が聞こえてくる。
テニス部で活躍している彼にとっては日常茶飯事なので大して気にもしない。

の友人たちに軽く挨拶をして彼女を借りる・・・というより
に用事?どうぞどうぞ。持っていって。」と“のし”を付けて押し付けられた。

くすくすと笑う幸村に、は苦笑する。



「あの子たち、幸村くんのファンだからね。」


「俺の?それは光栄だな。」



冗談めかしてそう言った幸村には言う。


「まあ、この学校の女生徒半分は幸村くんのファンだといっても過言じゃないけどね。」


「・・・。それはちょっと・・・」



心なしか顔を引きつらせた幸村をは真顔で見つめる。


「あら?本当よ。

 それで、何か用事があったんでしょ?部活のこと?」



にそう問われて、幸村は当初の目的を思い出した。



「ちょっと、おすそ分けが欲しいな。って思ったんだ。」


「・・・?」



幸村の言葉には首を傾げる。
そんな彼女を見て、幸村は くすり と笑うと、の抱えている袋を指差して「こ・れ。」と言った。
その中身は今さっき調理実習でが作ったカップケーキ。

この1週間「差し入れです。」と女の子からカップケーキを貰うことが多くて
『なんでだ?』と思っていたら、どうやら授業で作っているらしいことを知った。



そうしたら ―――



他の誰でもない。の作ったカップケーキが食べたい。
そう思ってしまった。
それで、のクラスの実習日を調べて・・・



『自分でも待ち伏せなんてセコイとは思うけど・・・』



そう思ってみても行動せずにはいられない。





「これ?別に構わないけれど・・・幸村くんも目ざといねぇ?」



の言葉に引っ掛かりを覚えて、幸村は考え込むように廊下の天井に目を向ける。
そんな彼の様子には答えを投げかけた。



「さっきブンちゃんが来てね。自分の分を確保して帰ったの。」


「・・・・丸井が?」


「うん。ブンちゃん調理実習の時は必ず来るよ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・殺す」



幸村の小さな呟きには気付かずに、は楽しそうに丸井の話を続け、そして言った。



「でも、ビックリしちゃった。まさか幸村くんまでコレを欲しがるなんて思わなかったから。
 幸村くん、甘いもの好きだったっけ?」


「いや、別にそういう訳じゃないよ。」



にっこりと笑って幸村は告げる。
『じゃあ、なんで?』そんな表情のに格別の笑顔を向けて、彼は言った。



「これは特別だからね。」



『これ』は もちろん『の作ったもの』と置き換えることが出来るのだがは気付かない。



「カップケーキが好きなの?」


「ちょっと違うかな。
 が持ってる、このカップケーキってのがポイントなんだよ。」


「これ?」


「そう、それ。」



自分の手元に目を向けたへ謎掛けのような言葉を幸村は告げる。



「俺ね、自慢じゃないんだけど今週はカップケーキ、嫌って程 貰ってるんだよ。」



幸村の言葉には素直に頷いた。
確かにのクラスメイトにも「幸村くんにあげるの!」と可愛くラッピングしている子が何人かいた。
他のクラスの子からだって、貰っていて当たり前だ。


『じゃあ、なんで?』


どうして、これが特別なのか全く分からない。
考え込んでしまったに幸村は楽しそうに問いかけた。



「分からない?」



大きく頷くを見て、幸村は言う。



「大好きな子の手作りだから。」


「・・・・っ!?」



驚いて声も出ないの代わりに周囲を歩いていた少女たちから悲鳴が上がる。

聞き耳を立てていた訳ではないのだが、幸村が声を落とすこともなく告げたので聞こえてしまったのだ。



「ゆ・・・幸村くん?」



真っ赤になったに幸村は相変わらず笑顔のままで言った。



「俺はのことが大好きなんだけど・・・は?俺のこと、好き?」









周囲の視線が突き刺さる中、は真っ赤な顔で頷いた。























「幸村くんったら。あんなに たくさんの人の前で・・・その・・」



放課後、部活を終えて2人での帰り道。
は先程のことを思い出して頬を赤く染めると、幸村のことを軽く睨む。



幸村がに告白して、彼女がOKしたという噂はあっという間に校内を駆け抜けた。



「恥ずかしい。」そう言うに幸村は笑顔で「ごめんね。」と謝る。

けれど、幸村としては好都合だった。






実は今日、告白するつもりではなかった。
もっと、が喜びそうなシチュエーションを考えていたのだが、丸井の話を聞いているうちになんとも言えない気持ちになった。

は俺のものだ』

と、大きな声で言いたくなった。
そのために、に気持ちを打ち明けなくてはと、あんな場所で言ってしまったが・・・



『これで、と俺のことは皆が知ったことになる。
 真田には悪いけど・・・』





「ふふっ」


「なに?」


「いや、嬉しいな。と思って。」


「え?」


が俺の彼女になってくれたってこと。」












★あとがき★

木之元 様より20,000Hitクイズ正解の景品(?)としてリクエストして戴きました。
リクの内容というのが・・・



風さんの幸村は入院中のドリだったので、
今回は健康的なゆっきぃでいきたいと思います。(笑)

そうだなあ、真田も好きなヒロインを鮮やかにかっさらってください!!



というものでした。
で、出来上がったものが・・・コレ(汗)

真田ほとんど出てこないし、ヒロインが幸村を好きだったという理由は分からないし。
さん・・・すみません^^;
月夜の力ではこれが限界です。

こんなですが、これからも遊びに来てくれると嬉しいです。





☆リクのお礼☆
 月夜 風さん、まずは20,000Hitおめでとうございます!!
 そして記念リク、本当にありがとうございました!!!!
 リクを考えるのがとっても下手な私なんですが、
 こんな風にリクよりも素敵な幸村君にしてくれて感謝感激ですvv
 だって、テニプリでもアニプリでも幸村は入院してる姿しか見てないし、
 でも、彼が元気だったら、やはり立海大の女生徒の憧れの的だと思うんですよ。
 その幸村に『君の手作りだからこそ食べたいんだ!』と告白されちゃって、
 私の幸村度も上がりっぱなしです。(今や不二君の次がゆっきぃだな・・・。)

 どうかこれからもよろしくお願いしますね!





Back