俺の我儘
「ねえ、今度の期末、どうする?」
幸村が口火を切った。
「むろん、勝負だな!」
真田が腕組みしながら言い放つ。
「別にいいけど・・・。」
が考え込みながら答える。
図書室でおもいおもいに問題集を広げてるのは、
立海大附属高テニス部3強と言われた幸村・柳・真田と、同級生のの4人だった。
3年の秋ともなれば受験で忙しいのではあるが、
内部進学者にとってはある程度の成績を保持できていればとりたてて勉強しなくてもいいはずだった。
ところがこの4人は校内テストとは言え、常に学年トップを争うライバルでもあった。
「悪いが一番は俺だ。
今までだってそうだったし、これからもそれは変わらんな。」
真田が不敵な笑みを浮かべて一同を見渡す。
「それはどうかしら。
今回だけはその座を明け渡してもらうわ。」
が頬杖をついたまま真田を見上げる。
「柳、この勝負、どう思う?」
幸村は面白そうに柳に尋ねた。
「そうだな、データ的には真田が有利・・・かな。」
「ふ〜ん、じゃあ僕はの応援しようかな。」
「おい、柳も幸村も戦線離脱とみなしていいんだな?」
「離脱はしないが、俺はマイペースでやるよ。
と真田に合わせると自分のスタイルで勉強できないからな。」
柳は顔を上げず、相変わらず自分のノート作りに専念していた。
「柳も幸村もいつも傍観者ね?
たまにはこの暴君を引きずり落とす気にはなれないの?」
がちょっと怒った様に言う。
「あはは。も相変わらず真田には負けたくないんだね〜。
じゃあ、今回は何か賭けてみる?
その方が楽しいもの。」
幸村は指先でシャーペンをくるりと回しながらニッコリ微笑み返す。
「いいわよ。
でも、今回は私、絶対負けないからね?」
「ほぉ。そんな大口叩いていいのか?
まあいいだろう、もしが勝ったら、なんでもの言う事を聞いてやる。
ただし、俺が勝ったら俺の言うことを聞く。
どうだ?」
「受けて立とうじゃないの!
真田こそ、男に二言はないでしょうね?」
「は。俺が負けると本気で思ってるのか?
どんな草試合だろうと負ける訳にはいかない、それが俺の信条だ!
まして女には負けられない。」
「よーくわかりました。
絶対真田に勝って、下僕のように一日こき使ってやるわ!」
とうとうは本当に頭にきたようで、
自分の荷物を片付けると図書室から出て行ってしまった。
真田はの後ろ姿を見送りながら、またやってしまったか…という顔をしていた。
「真田ってさ、なんでより優位に立とうとするの?
もっとこう、普通に仲良く勉強できないかなあ。
せっかく僕たちが協力してあげてるのにね。」
幸村が肩をすくめながらため息をついた。
「幸村、それは真田には無理な話だ。
気の利いた事なんて言えないし、
口を開けばけんか腰だし…。
まあ、それでも毎回よくが真田に挑戦するね。」
「本当に。どっちも負けず嫌いって言うか。
でも普通の子だったらもうとっくに真田に愛想を尽かしてるね。」
柳や幸村に言われるまでもなく、真田としてもと仲良く肩を並べて勉強するつもりはあるのだが、
毎回なぜか思うようには事が運ばない。
「大体なんで俺が責められねばならん!
煽るような事を言ってるのは幸村だろうが?」
「そう言えば真田。推薦留学の話はどうした?」
幸村は真田の言い分は無視して、あっさり話題を変えた。
「ああ、あれか。どうもこうも。
俺は立海大でテニスを続けるつもりだし、
大体、留学など性に合わん!」
「ぷっ。そうだよね〜。
真田って畳がないところじゃ寝られないんだよね。」
幸村がクスクス笑うのを、真田が睨む。
「まあ、毎年成績上位者から推薦留学者が出るから仕方ないけど、
そういえばも学年主任に呼ばれて打診されたらしいな。」
柳が幸村の方を見ると、幸村も悪戯っぽく柳を見返しながら言葉を続ける。
「そうそう。、留学するのも悪くないかなって言ってたね。
今度の試験でトップになれば、文句なしで推薦してもらえるものね。
なんたっては女子では常にトップな訳だし…。
じゃあ、僕はに手を貸して、
何が何でもを一番にさせてあげようかな。」
幸村の言葉に真田はむうっと押し黙った。
全く幸村はいつも訳のわからないことを言う。
俺に協力するだのと言いながら、
結局の肩を持つ・・・。
それにしても、今日は言いすぎたか?
真田はをたきつけるような事を言ってしまった事を、密かに後悔していた・・・。
翌日から真田との熾烈な戦いが始まった。
休み時間といえども、二人は黙々とお互いに試験勉強に専念していた。
あまりのヒート振りに、クラスメートたちも遠巻きにするほどだった。
放課後、真田が図書室に寄ると、そこには先にがいた。
は真田に気づくと、わずかに眉をひそめた。
真田は憮然としながらもの隣に座った。
「相変わらず熱心だな。」
「真田に負けたくないからね。」
「そんなに一番になりたいか?」
「・・・。」
「、お前、本当に・・・。」
「何?」
「いや、結果が出たら言う。」
「そう・・・。」
真田は自問していた。
は本当に、留学を希望してるのだろうか?
俺たちはずっと一緒に進むのではなかったのか?
に聞きたいことはいろいろあるのだが、真田は聞けないでいた。
と、が真田を見上げてふっと笑う。
「ねえ、暇ならここ、教えてくれない?」
の指し示す細い指先を見つめ、真田もふっと苦笑する。
幸村が、なんでより優位に立とうとするのか、と言ってたな。
俺は優位に立ちたいんじゃなくて、
本当は、
こうしてと肩を並べて、
二人でいたかったんだ・・・。
真田はのシャーペンを借りると、
鮮やかに問題を解いていった。
まるで魔法にかかったようなシャーペンの動きをは息を殺して見つめていた。
「真田って、とてもきれいな字を書くよね。」
突然のの言葉に真田は思わずを見つめ返す。
問題を解くのにあまりにも真剣だったため今まで気づかなかったが、
の顔が間近にありすぎて、真田の動悸は幾分早くなる。
「そ、そうか・・・?」
「うん。見やすいって言うのかな。
角ばってもなくて、字だけ見てると真田じゃないみたい。
…って、変だよね。
でも、こうやって真田に教えてもらうのは初めてだな。」
「ああ・・・、そうだな。」
そう言えば、いつも幸村や柳がなんだかんだとと一緒にいるから、
こうして二人だけでいるのは初めてかもしれない・・・。
「今日は不機嫌じゃないんだね?」
「俺はいつもそんなに不機嫌に見えるか?」
「違うの…?」
はそう言ってかすかに笑う。
「あいつらがうるさすぎるんだ。」
真田はそう答えながら、穏やかな気持ちでいられる自分に気づいた。
それは多分、を独り占めしている優越感なのかもしれない…。
「も今日は食って掛からないんだな?」
「ひどいなあ〜。
曲がりなりにも教えて下さってる方に失礼な事は言わないわ。
真田の方こそあんまり優しいとびっくりするわね。」
「俺はいつもと変わらんぞ?」
真田の言葉には呆れたように吹き出す。
が、真田は至極真面目な顔でのノートに何やら書き始めた。
That is probably because it is by the side of you if it is said that today's I am gentle.
(もし今日の俺が優しいと言うなら、それはお前のそばにいるからだろう。)
「何なのよ、これ…?」
「俺は気の利いた言葉は言えない。
が、この位の英文なら書けるな。」
「だから、どういう意味なのよ?」
「そのままだ。」
そう言うと、真田はまだ面食らってる様子のを残して図書室を後にした。
やがて試験週間が過ぎ、この日、成績上位者が掲示板に張り出された。
1. 真田弦一郎 698点/700点中
2. 696点
3. 幸村精市 692点
4. 柳 蓮二 690点
・・・
真田は掲示板を確認すると、を探した。
どうしても言わなければいけない言葉を、今日こそは言わなければ・・・。
は非常階段の踊り場で校庭を見つめていた。
真田を認めるとわずかにため息をついた。
「…真田には敵わないな、私。」
「そんなことはない。僅差だったろう?」
「でも負けは負け。
約束どおり、なんでも真田の言う事を聞くわ。
何をすればいい?」
校庭から吹き上がる風がの髪を梳いていく。
真田は眩しそうにを見つめた。
「俺がこんな事を言うのも理不尽かもしれないが・・・。」
「?」
「いや、の将来なんだからそれは尊重したいとは思うのだが、
それでも、俺は・・・。」
真田は言いよどんで思わず右手で顔を覆った。
我侭だと思う。
それは百も承知なのだが・・・。
「真田・・・?」
「俺はとこの先もずっと一緒でありたいと思う。
俺はと一緒に立海大に行くつもりだったんだ。
だから、お前に留学されると困るのだが…。」
「えっ?///」
「嫌か・・・?」
「…嫌じゃないけど。」
「けど、なんだ?」
「私、この間の真田の英文が気になって仕方なかったの。
ねえ、あれはどういうつもりだったの?」
「俺はお前と二人っきりなら穏やかになれる。
だからだ。
俺を優しい気持ちにさせるのはだけだし、
だけに俺は優しくなりたい。
つまり、…が好きなんだ。」
一陣の風が吹いたかと思った瞬間、真田はを思いっきり引き寄せて抱きしめた。
の柔らかな感触に真田は顔を赤くしていたが、
真田の胸にすっぽり包まれていたには当然見ることは出来なかった。
真田の行動は思いもかけないものだったが、
もまた、暖かなたくましい真田の胸の中で、
真田のことを求めていた自分を隠すことはしなかった。
しばらくすると、真田がの耳元に囁いた。
「Will you say nothing though I love you like this? 」
(俺はこんなにお前のことを愛してるのに、お前は何も言ってはくれないのか? )
「私も好きだよ、真田。
多分、ずっと前から…。」
数日後。
内部進学者の願書提出日の朝、真田・幸村・柳とは4人揃って立海大の校門をくぐった。
調査書だけで立海大への進学は決まったも同然だったが、
真田の機嫌は最高に悪かった。
「なんで理学部なんだ!」
「何でって言われても…。」
「一緒に立海大に行くと約束したじゃないか!」
「あら、あの時は立海大とは言ったけど、
同じ学部とまでは、弦一郎は言わなかったじゃない。」
「大体、なんで幸村がと一緒の学部なんだ!!」
真田の怒りは幸村にまで及ぶ。
「やだなあ、男の嫉妬なんてみっともないよ、真田。
大体僕とはもともと理系だったじゃない。
それに真田はの彼氏として一緒にいるんだから、
授業くらい僕とが一緒でもいいと思うけど…。」
幸村は真田の不機嫌なんて物ともせずニコニコしている。
「ほら、真田は柳と一緒の文学部なんだからさ。」
「幸村!」
真田は大きな声を出すと、そのままの手を引いて先に歩き出した。
そしてを引き寄せると、幸村と柳の面前でにキスをした。
「っ///。」
真っ赤になっているを片手で引き寄せたまま真田が振り返った。
「いいか!は俺だけのものなんだからな!!」
The end
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☆あとがき☆
今回素敵なドリームサイト「Aquqmarine」の広瀬澪様(旧・藍澤櫻様)のご好意により、
相互リンクとなりましたので、その記念に書かせていただきました。
真田とヒロインは同級生、高3。
当然、一緒に立海大へ進学予定・・だったんですが、
彼女に留学話しが持ち上がって・・・。
ヒロインはマネでもそうでなくてもOK。
留学するでも止めるでも(もしくは、真田の勘違いなんてのでも^^;)
それもキノさんにお任せしますが、
基本的にハッピーエンド(将来的な・・でもOKです)が希望。
リクとしてはとても自由度の高いものだったのにもかかわらず
すごく手こずってしまいました。
真田って苦手科目はないらしいので、めちゃくちゃ頭のいい真田にしてみました。
でも、英文は文法的にあってるかどうかは不明です。(苦笑)
澪様のドリームはどれも素敵過ぎて、
こんな物を差し上げるのはとても気恥ずかしいのですが、
どうか若輩者故このレベルでご容赦を!(笑)
これからもどうぞよろしくお願いします。
2004.11.20.