Happy Birthday
と幸村が付き合いだして2週間が過ぎた。
「なんかさ、今でも信じられないな。」
の親友、が頬杖をついたまま口を切った。
「そんなに似合わないかな?」
は相変わらず屈託なく笑いながらに尋ねる。
「だってさ、あの幸村だよ?
立海大テニス部の皇帝と呼ばれる真田が勝てないくらい強いって噂だし、
でもって、今までたくさんの女の子たちを袖に振ってる冷血漢だよ?
恋愛なんて本気でしそうにないってぐらい淡白な奴だと思ってたのにな。」
はひとおもいに言ってのけた。
「すごい言われよう…。」
「そりゃあ私だってこの目で見るまでは信じられなかったけど。
正直、幸村君がのことをからかってるんじゃないかと心配だったんだから。」
「でも、今は違うよね?」
「ま、まあね…。
噂ほど悪い奴じゃないってわかったけど。」
「幸村君は多分、好き嫌いがはっきりしてるんだと思う。
興味のない事は全然視野に入れないって所があるかも。」
そういう所が誤解されやすいんじゃないのかなあ、と
がため息をつく。
「だけどさ、たちを見てると、
あんまり普通のカップルには見えないよ。」
はやっぱりあんたたちって変!とばかりにを見つめる。
「そうなの?」
「じゃあ、聞くけど、
今度の土曜日っての誕生日でしょ?
幸村君は知ってるの?」
「さあ、どうかな。
誕生日、聞かれた事ないから…。」
「ああ、もう、なんであんたまでそう淡白なのよ!」
なぜかは他人事なのに怒り出した。
「いい?恋人たちのイベントって言ったら、
バレンタインにクリスマスに、誕生日よ!!
は自分の誕生日、幸村君と過ごしたいって思わないの?」
「誕生日に?」
「そう、誕生日に!」
「一緒に過ごせればいいなって思うけど、
その日は練習試合が入ってなかった?」
「そうよ、そこよ。
何も引退した3年が出る事ないじゃないのよね。」
のために幸村に文句を言ってるのかと思いきや、
実のところ、彼氏がテニスを優先している点に文句を言いたいらしい。
「なーんだ、丸井君とデートができなくて拗ねてるんだ、は?」
が呆れたように言った。
いつの間にやら、とブン太は付き合うことになったらしい。
といっても、この2人ほどうるさいカップルはいないとは思う。
2人が顔を合わすと、途端に些細な事でけんかになることが多いから…。
「ほんと、テニス部の男とは絶対関わり合いたくなかったのにさ。」
は携帯の画面を見つめながら、頬を膨らませた。
「メルアドを教えろってうるさく言うから教えたのに、
数えるほどしかメールしてこないのよ?
その癖お菓子をくれる人には誰にでもほいほいついて行っちゃうし。
自分は他の女の子と楽しそうにしゃべるくせに、
私がちょっと他の男子と話してたりするとすっごく嫌がるし…。」
ブン太の悪口を言ってるようでどこかノロケ話のようで、
は苦笑するしかなかった。
「そう思うと、と幸村はある意味理想のカップルなのかしら?
つかず離れず、それでいてあんまり干渉しないで、
淡白といえば淡白だけど、
ブン太みたいにヤキモチ焼かなくて、しつこくないしね。」
つかず離れず…か。
と別れてからも、はその言葉が頭から離れなかった。
そう言われてみれば、も幸村もお互いあまり干渉しあわない。
出会った時からお互いが邪魔でない存在だったから一緒にいる感じだったし、
テニスプレーヤーとしてすごい実力の持ち主と知ってからは、
幸村がテニスを優先する事は自然な事だと思ってたし、
それを理解してあげる事が幸村への愛情の証のひとつと思ってきた。
だけど…?
もっと一緒に過ごしたいって思う気持もある。
というか、その気持ちはだんだんとの中で芽生えつつある感情だった。
「もっと一緒にいたいな…。」
そして土曜日。
はを誘って立海大のテニスコートへ足を運んだ。
すでに練習試合は始まってるようで、
なぜかギャラリーはいつもの倍だった。
「ねえ、なんだかいつもよりギャラリーが多くない?」
尋ねるには薄い水色のジャージを指差した。
「仕方ないわよ、関東のホスト軍団って言われる氷帝学園が来てるんだから。」
いつもは幸村の姿も簡単に見つけることができるのに、
今日はフェンスに他校の女子高生も張り付いての応援となり、
その雰囲気に呑まれたは遠巻きにするしかなかった。
「ねえ、部室に行ってようか?」
「そうだね。
あ、でもブン太はあそこにいるからちょっと声かけてくるわ。
、先に行ってて?」
と別れては部室の方へ歩き出した。
テニスコートの黄色い歓声を背中に聞きながら、
はなんだか悲しい気持ちだった。
テニスコートの中にいる幸村とはそんなに離れてない距離なのに、
なぜだか今日は幸村が遠い存在に思える。
今更ながら、テニス部の人気の高さに、
確かに幸村とは特別な関係のはずなのに、
隔たりを感じてしまうのはなぜだろう…。
テニスをしている時の幸村は自分の世界とは違うところで、
その領域に自分が入っていけない事は当然の事で、
それを淋しいだとか悲しいだとか思ったことは今までなかったのに。
お互いに別々の時間を過ごす事はごく当たり前のことで、
たまに会うからこそその時間が大切だと思っていたはずなのに。
は言いようのない不安に戸惑いながら部室のドアを開けようとした、
が、ドアは不意に内側から大きく開け放たれて、
はノブに手を掛けようとしたままの姿勢でバランスを失った。
あっと思った瞬間、中にいた人物に体を支えられた。
「きゃっ!?」
「あーん?何やってんだ?」
水色のジャージを着た見慣れぬ人物は、それでも優しくを抱き起こした。
「ご、ごめんなさい。」
「いや。どうってことないぜ?
それよりお前、マネージャーか?」
「えっ、あの、違います///」
慌てて後ろに後ずさりしようとするのに、
なぜか不敵な笑みを浮かべてる彼はを見つめながらの腕を掴んで離さない。
「どうせお前も俺様のファンなんだろう?」
横柄な言葉には呆れながらも、
幸村ではない見知らぬ男に腕を掴まれてる事に少なからず恐怖を感じていた。
「はん、まさか俺様のこと知らないとでも言うんじゃねーだろうな?」
そのまま部室の壁に押し付けられ、は身動きが取れない。
「私、あなたなんて知らない。知りたくもない。」
「いい度胸してるな。
俺は氷帝の跡部だ。お前の名前は?」
は泣きそうになる気持ちを必死でこらえながら、心の中で幸村を呼んだ。
「ねえ、跡部。
君はテニスをしに来たんじゃないの?」
静かだが明らかに非難の色を帯びた声は、幸村だった。
「ああ、幸村か。
どうせ練習試合は2年がメインだ。
俺たち3年はエキシビジョン マッチまで出番なしだしな。
この位の暇つぶしはどうってことないだろ?」
恋しい人の声にほっとするだったが、
とてつもなくイライラしている幸村の様子には少なからず驚いていた。
「いい加減その手を離したら、跡部。
わかってないようだから今回だけは大目に見るけど、
は俺の彼女なんだ。」
「はっ、そういうことか。
ふん、お前にしてはえらく動揺してると思ったぜ。」
そう言いながら跡部はをしげしげと見やった。
「ま、悪かったな。
幸村の彼女でなかったら、俺が欲しかったところだぜ。」
一向に悪びれる様子もなく跡部はを解放すると、
テニスコートの方へゆっくりと立ち去った。
「大丈夫だった、?」
そう優しく囁く幸村は、けれど力強くを引き寄せるとそのまま抱きしめた、
「ああ、。よかった。
君が跡部と一緒にいる姿を見た時、
それだけで気分が悪くなったんだ。」
「幸村君…、ごめんなさい。
どうしても会いたくなって…。
ううん、私、どんどん幸村君のことが好きで一杯になっちゃう。
今まで大丈夫だった時間も、幸村君がいないだけで淋しくて。」
「うん、俺も。
のいない時間、がどこでどうしてるのか、
すごく心配になる。
に触れてないと不安で一杯だよ?」
「よかった。幸村君も同じ気持ちでいてくれて。
私、に淡白すぎるって言われてて、よくわからなかったんだけど、
でも今は違う。
世界の誰よりも幸村君が好きだし、
私だけの幸村君じゃなきゃ嫌だって思う。」
「ふふっ、ったらすんなりそんな事言われちゃうと、
もう練習試合なんてすっぽかしちゃいそうだよ?」
「そんな///。」
赤面するに好きだよって言いながら幸村が甘い口付けをしてきた。
「、お誕生日おめでとう!」
「えっ、知ってたの?」
「当たり前でしょう?
が会いに来なくても、俺から会いに行ったよ。
でも、の気持ちがわかったから午前中つぶれても得した気分。
部活終わったら、二人っきりで過ごそうね?」
「うん。」
「それまで、氷帝の奴らには気をつけてるんだよ?」
クスッと笑いながら、幸村は深い口付けをにくれた。
テニスコートの部員たちがしっかり自分たちを見てる事を計算に入れながら…。
は俺のものなんだからね!!
The end
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☆あとがき☆
自分の本当の誕生日ってもうあんまり嬉しくないんですけど、
やっぱり記念に書いてみました。
不二君がお祝いしてくれるドリは以前頂き物でUPしてあるので、
私は幸村で…。(苦笑)
―でも、いつまでも精神年齢は
テニプリキャラと共にありますから!!―
2005.3.26.