Love of prince  −Milk−





バレンタインに衝撃的な脱アイドル宣言をした不二と、
そんな不二に公衆の面前でキスをされてしまったは、
今やもう青学の公認カップルではあったけれど、
それでもはそんな状況に慣れないまま2月も終わりを迎えようとしていた。





 「おはよ、!」

親友の小鷹那美がフェンス越しに声をかけてきた。

 「あっ、那美、おはよ。
  女子部はもう上がりなの?」

ベンチに座ったままののために、那美はわざわざのそばまで来ると、
その隣に腰掛けてきた。

 「まだ足痛むんだって?」

捻挫はそれ程ひどくはなかったのだが、
やはり毎日足を使うなというのが無理な話で、
前ほどではないにしても、やはりまだ走り回ることはできなかった。

 「うん、少しね。」

 「で、マネ業もできないでいると?」

の代わりに後輩のが一生懸命動き回ってる様子を、
二人は並んだまま同じように眺めていた。

 「ま、私はもうほとんど引退状態だから支障はないんだけどさ、
  何かしようとすると…うるさくて、ね。」

がちょっとため息をついた。

 「ふふっ、不二ってさ、に激甘だよね。」

 「甘い? あれは甘いって言うより、ほとんど妨害ね。」

 「よく言うわよ。至れり尽くせりで羨ましい限りじゃない。」

小鷹がうっとりした口調で言うものだから、
は呆れたように親友の顔を見つめてしまった。

 「いやもう、みんな不二のこと、美化しすぎだよ。
  実際彼女になってみなよ?
  もうこんなに拘束されてどうするの?って感じなんだよ?」

 「え〜?それのどこが不満なの?
  みんなの憧れの王子様に嫌って言うほど愛されちゃっててさ。
  あんなにもててたのに、一筋じゃない。
  すごいと思わない?
  男の鏡って言っても過言じゃないわよ。」




男の…鏡ですか?




なんだかもう反論する気にもなれなくてはまたため息をついた。









 「!今着替えてくるからもう少し待ってて!」


コートの向こうで不二がにこやかに手を振っている。



 「ほらほら王子様の登場ね。
  そう言えばさ…。」

 「何?」

 「不二の誕生日には何あげるの?」

 「……はい?」

 「だから、不二の誕生日よ!」

 「……えっと、それはいつだっけ?」

 「ええええっ????
  それ、マジで聞いてる?」

 「いや、確か2月の終わりだったか、3月の初めだったか、
  その辺りだったかなあと…。」

 「まあ確かに今年は閏年じゃないから不二の誕生日はないけどさ。
  一応マネだったんじゃないの、レギュラーの?」

 「いちいち気にしてなんかなかったよ。
  毎年バレンタインの後にプレゼントの山を見ると、
  今日が不二の誕生日かぁ、位にしか認識してなかったし。」

 「いや、なんかその判断は間違ってないけどさ。」

那美は苦笑した。

 「だってテニス部のレギュラーは誕生日とかクリスマスとか、
  半端じゃないじゃない?
  マネがしなくても、すごい数のプレゼントで部室があふれるんだもん。
  それを片付けるだけで一苦労だったし。」

 「だけど今年は立場が違うじゃない?
  誕生日プレゼントくらい用意してなかったら、
  さすがの不二もきっと怒るわよ?」

 「ん〜、だけど何あげていいか思いつかないし。」

 「じゃあ、不二に聞いてみれば?
  何か欲しい物ある?とか、して欲しい事ある?とか…。」

 「それはある意味怖くて聞けない。」



なんたって公衆の面前で平気でキスしてくる彼のこと、
なんだか絶対それだけは聞いちゃいけない気がする。




 「怖くて聞けない事って、何が?」



いつの間に近づいてきたのだろう、
がぎこちなく振り返って見ると、
制服に着替えた不二が満面の笑みで立っている。



 「で、何の話?」


そう聞かれても返答に困る。
が黙っていると、那美は笑いながら不二に答えた。


 「のモテル彼氏様はね、、
  誕生日に他の子からいろいろプレゼントをもらうから、
  はあげる物がないんだって。」


そう言うと那美は、先に行くねと、を残して行ってしまった。


薄情もの!


は心の中で叫んだ。










 「ふ〜ん、一応悩んでくれてるんだ?」

 「いや、悩んではないけど…。」

 「何だっていいのに。」

 「ちゃっかりもらう気でいる?」

 「そりゃあね、誕生日だし。」

 「いっぱいもらうくせに!」

 「ふふっ。やっぱり妬いてる。」

 「違うったら////」


不二はの鞄も持つと、もう片方の手をに差し出した。

素直にその手につかまると、不二は優しくの体をベンチから引き上げてくれる。

いつだって不二は優しくて、を労わってくれる。



 「別に何もなくったっていいよ?」

 「えっ?」

 「だから、プレゼント。」



ぎゅっと握り締めてくる不二の手はとても暖かくて、
それだけでもには気恥ずかしい。


 「がさ、こうして僕と一緒にいつまでもいてくれるんなら、
  僕は何もいらないよ。」


どうしてこの人はこんな台詞をいとも簡単にさらりと言ってしまうのだろう。

そして普段なら笑い飛ばしてしまうであろう言葉も、
不二の声で言われてしまうと、
その言葉が体中に心地よくしみてくるのは本当に不思議だと思う。

彼の魔力に完全に毒されている。

でもその束縛は、本当は全然嫌じゃない…。




 「本当に何もいらないの?」

 「が僕にあげたいって思うものがないんだったら。」

不二は時々こういう意地悪な言い方をする。

聞いてるのは私の方なのに…。

 「そういうの、ずるくない?」

 「そうかな。」

 「そうじゃない。
  誰だってお祝いしたいなって思ってる人に
  何もあげないで済ませちゃうなんてできっこないよ。
  やっぱりもらって喜んでくれるものをあげたいって思うし…。」


そう言ってしまってから、はふと黙り込んでる不二に、
なんだか言ってはいけない事を言ってしまったような気になった。

 「僕が欲しいもの、くれるの?」

 「あ、やっぱり今のなし。
  私、不二にあげたい物ってなかった。」

そんなの言葉に不二はついにこらえ切れなくて笑い出した。

 「心配しないで。
  今はまだこれだけで我慢するから…。」

不審そうに不二を見上げるの顔はとても愛らしくて、
不二は握り締めていた手を強めに引くと、
鮮やかにの唇を奪い取った。


この間とは違って長い口づけには気が遠くなる程だった。

そのまま不二の胸に顔をうずめると、
不二はクスクス笑いながらの髪にやさしくキスをした。


 「だめだよ、このくらいでバテちゃ。」

 「バカ…///」

 







きっと不二は何年たってもこのままなんだろうな。

そして毎年、プレゼントはいらないって言うかもしれない。

そうしたら、私は飛び切りの笑顔で言うの。




  お誕生日おめでとう


  今年も愛してるよ、って。








The end


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☆あとがき☆
 今年も無事に不二のお誕生日をお祝いできて嬉しいです。
やっぱり不二が一番好きです!!
浮気もしますが(えっ?)でも不二が一番なのは永遠に不変です。
2006.2.28.