君がいないと   2









 「?」



勢い良く教室を飛び出したというものの
不二がどこにいるかなんてにはわからなかった。

今までマネージャーをやってきても
不二に手を焼いた事などそう言えば今までなかったと思う。

中学の全国大会で不二が初めて公式戦で負けた時、
さすがに試合直後は声を掛けられなかったけど
あの時でさえ、不二は立ち止まることなく自分の中で答えを見つけ出し
さらなる高みへと目標も新たに前へと進みだした。

お疲れ様、という言葉くらいしか出なかったのに
不二は落ち込んだ顔を見せることなくまた頑張るよって笑った。

だから落ち込んだ不二が一人になりたい場所なんて
正直全然思い浮かばなかった。


 「そんなに慌ててどこに行くんだい?」

呼び止められて振り返れば
乾の驚いたような視線にぶつかって
その直後に始業のチャイムがなってしまった。

 「乾、不二がどこにいるか知らない?」

青学のデータマンならどんな事でも答えてくれそうだったから
は早口になりながら乾の言葉を待つ。

チャイムが鳴ったのに教室にいない不二、
それをこれから探しに行こうとしてるの切羽詰った様子に
乾の目は少しだけ優しい色を浮かべた。

 「不二を探してるのか?
  あいつがサボるとすればコート裏の芝生の辺りじゃないか?」

 「うん、わかった。」

髪を翻して走り出すの背中を
乾の良く通る声が後押しをしてくれた。

 「、1組の前は通るなよ。
  手塚に見られたらまずい・・・。」

乾だって充分授業に遅刻なのに、とは苦笑したが
忠告どおり中央階段を駆け下りて行った。







担任が昇降口を通る前に抜け出せてよかったと一息つき、
なるべく校舎から目立たないようにとテニスコートに向かった。

不二が授業をサボるなんて信じられないけれど
自分もまた何も授業サボってまで不二を探さなくてもいいんじゃないかと
ふと疑問に思うのだけど、もう立ち止まる事は出来なかった。

とにかく不二を探し出す。

そしてこのもやもやした何かを終わらせる。


コートのフェンスを回って裏手のあたりを見回すと
隆起した芝生の丘に寝転んでる不二を見つけた。

静かなこの場所は日当たりも良くて
まるでどこかの公園でくつろいでる風にしか見えない。

息を整える間もなく不二のそばに立つと
不二は日の光を遮ってる腕をほんの少しずらしての事をチラリと見た。

確かに分かっているくせに不二は相変わらず何も言わなかった。


 「何やってるの、不二!」

少し詰問口調になったのは仕方ない。

勢いのまま走ってきたとアンニュイなまどろみを満喫していた不二とでは
あまりにも温度差が違いすぎる。

 「ねえ、どうしたって言うの?
  不二らしくない。
  チーフマネになれなくて落ち込んでるのは私の方だよ?
  不二には関係ないでしょ?」

一気に捲くし立てても不二は身動き一つしない。

それが余計に癇に障る。

 「さんのどこがそんなに気に入らないの?」

それを聞いてどうするの、なんて言われたらどうする事もできない、
愚問だったとは思うけど聞かずにはいられなかった。


 「そうだな、どこがって聞かれれば
  じゃないところ、かな。」


ともすれば冗談とも取れる答えだったけど
不二は至って真面目な口調でぽつりとそう答えてきた。

そしてゆっくりと上半身を起こすと不二は
今度はしっかりとと視線を合わせて
ひとつため息をついて静かに聞いてきた。

 「は何で僕の事を探しに来たの?」

 「何でって、心配だからに決まってるでしょ?」

怒ったようにが言えば不二は
さらにの瞳の中まで入り込む位じっと見上げてくる。

 「な、何よ?」

 「どの位心配してくれてるのかなって。
  ちょっとは期待してもいいのかな?」

 「私、マネージャーだよ?
  心配するのは当たり前じゃない。」

 「うん、でもね、はここまで僕を探しには来たりしない。」

 「そ、それは、・・・私と不二の付き合いが長いだけで。
  不二が今までこんなに調子を落とす事ってなかったし。
  それに・・・。」

 「それに?」

の言葉に段々不二の表情が明るくなるのが不思議で
そして少しほっとしたりして
不二と話す事なんて特別な事じゃないのに
今だけはなんだかいつもと違う気がしていた。


 「・・・なるのよ。」

 「何?」

 「気に・・・なったのよ!!
  いろいろ。」

 「いろいろって?」


鸚鵡返しする不二が憎たらしくもなってプイと視線を外せば
不二はクスクスと笑い出す。

 
 「にはもっと僕の事気にしてほしい。
  僕はもうがいないとだめなくらいだ、って気づいちゃった。」

 「な、何ばかな事言ってるのよ?」

 「ばかな事じゃないよ?
  ただ、最初は自信なかったよ?
  に慰めてもらおうと思ったら
  君は全然僕の事なんてマネージャーとしてしか見てくれてないし。
  仕方ないからのいないコートに慣れなくちゃと思ったけど
  そうすればするほどやっぱり調子は出ないし。
  コートでふっと君を探すたびに今までは難なく手に入っていた笑顔が
  今はどこにもなくて頑張る意欲も出ない。」

笑みを浮かべたまま不二はまた小さくため息をつく。

 「いつもが傍にいてくれて
  もうそれが普通の事で当たり前すぎて
  自分でも気がついてなかったんだけど、
  本当に、君がいないと僕は全然ダメなんだ。」

 「大袈裟だよ、不二。
  私にそんな影響力なんてないって。」

 「でも、がこうして僕の事心配して来てくれてる、
  気にしてくれてる、って分かったら
  もの凄く嬉しいって、そう思うこの気持ちはなんだと思う?」


そんな事を言われてしまってはもう黙る事しか出来なかった。

だって他の誰かだったらここまで探しに来たりはしないと思った。

不二の調子を良くも悪くもさせてるのが自分のせいだったと分かって
むしろそれを嬉しく思ってるこの気持ちが
不二と同じ気持ちなのだと思い当たってしまっての頬は赤くなった。

 「ああ、なんだか凄くテニスがしたい気分だな。」

目の前に見えるグリーンのコートに向かって不二がそう言った。

不二は口に出した言葉をすぐに実行するつもりなのか
すっと立ち上がるとに手を差し出して来た。

何のつもりなのかとはその手を見つめた。

 「、まさかこのまま授業に出るなんて言わないよね?」

 「・・・う、うん、まあ。」

 「じゃあ、一緒にテニスやろうよ?」

 「えっ?」


驚いて目を見張れば不二は意地悪い笑みを浮かべてる。

がテニスが全くできない事を知ってるくせに。

 「できっこないでしょ。」

 「僕がコーチしてあげるよ。」

 「時間の無駄だからいいって。」

 「時間の無駄、ねぇ?」

不二は更にクスクス笑い出して
どこまで本気なんだと呆れていたら
今度は両手を広げての方へ近づいて来た。

反射的に後ずさりしようと思ったけど
不二に敵うはずもなくすっぽりと抱きしめられていた。


 「そうだね、こんなチャンス、滅多にないね。」

 「ふ、不二?」

 「ここには誰もいないんだし
  好きな子と二人っきりなんだし
  ずっとこうしてる方がいいと思わない?」

 「ち、ちょっと!///」

 「好きだよ。
  君が好きだ、。」


耳元で言われた言葉に体中の力が抜けていく。

 「君がいないとダメなんだ。
  だから僕のものになって。
  じゃないとレギュラー落ちしてそっちに行くから。」

 「それはダメ。」

途中からろくでもない事を言い出す不二に
即座にかぶりを降ると不二はの髪を優しく梳いた。

 「じゃあ、僕のものになってくれるんだ。」

 「あ、あのね、そういう恥ずかしい事口にしないで。」

 「だってそこはちゃんと確認しておかないと。
  僕はこれからも何かあるたびにチーフマネじゃなくて
  に聞いてもらうから。
  じゃなきゃだめなんだからさ。」

額の髪を上げられてチュっと唇を寄せる不二に
は顔を赤くする以外に何も出来なくて固まっている。

不二に優しくされるのは心地いい。

君がいなきゃだめなんだと
自分を必要としてくれる人がいるのは
面映いけど凄く嬉しい。

チーフマネに慣れなかった事なんて
もうの中ではどうでも良い事に思えてくるから不思議だ。

不二に檄を飛ばすどころか
これでは丸っきり不二に丸め込まれてる状態だけど
こうして不二に支えられてるからこそ
もまた頑張れるんだと思った。



 「ねえ、不二。」

 「ん?」

 「ありがと。」

 「何?」

 「私も、不二の事好きだよ。」


だから、テニス、頑張ってよね、と付け加えたら
余計だなって不二が軽く笑ったのが肩越しに分かった。

初めて授業サボっちゃったから
きっと後で手塚辺りに怒られてしまうだろうけど
今だけは幸せな気持ちでいさせて、と心の中で呟いた。
  

 




  

THE END

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★あとがき★
 ここに来て下さる皆さんに感謝。
5年も頑張ってきた事を肩にかざす事なく
ひたすらテニプリに純愛を捧げたいと思ってます。(笑)
2009.5.28.